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【中国の禁輸問題】会談を起点に解決急げ(11月22日)

2023.11.22 08:53

 先の日中首脳会談で、東京電力福島第1原発処理水の海洋放出を巡る問題は、両国の建設的な協議と対話で解決策を見いだすことで一致した。ただ、中国による日本産水産物の輸入規制解除の先行きは見通せず、手応えをつかめたわけではない。形だけの合意に終わらぬよう政府は、会談を起点に早期正常化への外交努力を強める必要がある。

 岸田文雄首相は、科学的根拠に基づく冷静な対応と輸入規制の即時撤廃を要求した。習近平国家主席は処理水を「核汚染水」と重ねて呼び、「日本は国内外の合理的懸念に真剣に対応し、責任を持って建設的態度で適切に対処すべきだ」と訴えた。双方の主張が一部でも交わらなければ、協議や対話は前進しない。会談のやりとりを見る限り、平行線のままの印象を拭えなかった。

 習氏が言う「国内外の合理的懸念」について、国際原子力機関(IAEA)は海洋放出後の検証作業で「放出は計画通りに進んでいる。技術的な懸念はない」との見解を示している。中国の専門家が調査団に加わっている点も見逃せない。ジュネーブで今月開かれた世界貿易機関(WTO)の関連委員会では、禁輸の即時撤回を求める日本の立場を米国、英国、欧州連合(EU)、オーストラリアなど複数国が支持している。

 日中間の懸案は米国も絡んで複雑、膠着[こうちゃく]化し、中国が処理水問題を外交カードに利用しているとの指摘もある。国際的な機関や世界の主要国が海洋放出の妥当性を認めても、突破口にならないところに問題の難しさがある。

 内堀雅雄知事は、盛岡市で開かれた北海道東北地方知事会議で、禁輸は日本全体の問題であり、最後まで全責任を全うするよう国に求める考えを強調した。政府は、水産業の支援経費として89億円を補正予算案に盛り込んでいる。つなぎ資金を手当てしたりするのは必要だ。一方で、水揚げした海の幸の行き場がない状態が長引けば、漁業者の心痛は増すばかりだろう。

 東電は3回目の海洋放出を20日に終えた。処理水は想定以上に減っているという。一定の成果を上げているなら漁業者の苦境にも一段と寄り添い、自社内はもちろん国内の需要喚起に注力するよう求めたい。(五十嵐稔)