石垣りんの詩にある。〈お母さん、なぜ過ぎてゆかねばならないのですか、花は美しく、空はあんなに青い、このはるの 光あふれる中から―。〉▼19歳の予備校生はなぜ突然、将来を絶たれたのか。自宅から遠く離れた北のまちかどで。冬の日差しが緩んだ風をまとい、地上に届き始めたこの時。無念などという言葉では言い尽くせない。大学受験で郡山市を訪れた大阪府の横見咲空[さら]さんが、酒気帯び運転の犠牲になった。その命を返してあげる手だてはない▼「白が似合う女性だった」。事故現場に駆け付けた同級生が語っていた。笑顔を絶やさぬ、明るく素直な人柄だったとも。心の奥に純真を秘めていたのだろう。歯学部への進学を志していた。怖くないよ、お口を大きくあけてごらん―。治療を怖がる子どもを、にこやかになだめる。優しい未来の歯医者さんを奪った暴走が、ひたすら憎い▼詩は続く。〈お嬢さん お嬢さん 雲が流れてまいります どこへ流れてゆくのでしょう あれあれあんなに はるばると〉。咲空さん。せめて、さえぎるものは何もないほんとの空で、存分に夢を咲かせて。あなたを守れなかった悔しさを胸に、県民は願っているよ。<2025・1・25>