未曽有の事故を起こした東京電力福島第一原発は今、廃炉作業が進む。政府と東電は廃炉に要する期間を「三十~四十年」としているものの、いまだ具体的な廃炉完了の時期は示していない。1~3号機の原子炉内の溶融核燃料(デブリ)について詳細に把握できていないなど、課題は山積している。事故発生から十年が経過する中、県内からは「廃炉作業は地域の復興に大きく影響する」として、明確な廃炉完了の時期を示すよう求める声が上がる。
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政府と東電は福島第一原発の廃炉を進める上で、基本的な考え方や主要な目標工程などを廃炉工程表「中長期ロードマップ」に掲げている。
福島第一原発は二〇一一(平成二十三)年十二月、原子炉の圧力容器底部の温度がおおむね一〇〇度以下で、格納容器からの放射性物質の放出を大幅に抑制している「冷温停止状態」を達成した。これを受け、東電、資源エネルギー庁、原子力安全・保安院(当時)が二〇一一年十二月にロードマップの初版をまとめた。廃炉完了までの期間は冷温停止状態が達成された同年十二月から最長四十年とした。
政府関係者によると、通常の原発では、原子炉一基の廃炉に三十年の期間を要するという。福島第一原発では複数の原子炉の廃炉を同時並行で進めるため、作業で得た知見や技術を水平展開することによって、最長四十年での廃炉完了を想定したとの見方がある。
政府と東電は廃炉の進捗(しんちょく)に応じて工程表をこれまで五度改定したが、三十年から四十年で廃炉を完了させるとする計画の大枠は堅持している。
ただ、福島第一原発では、いまだ原子炉内の全容を解明できていない。政府と東電は廃炉完了までの期間の見直しに必要な精緻な工程を積み上げることが難しく、試算にすら着手できないのが現状だ。政府関係者は「原子炉の内部調査さえ満足にできていない。このままでは工程表は『絵に描いた餅』になりかねない」と危機感を抱く。
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初版の工程表では、1~4号機の使用済み核燃料プール内からの核燃料取り出しを二〇二一(令和三)年末までに完了するとしていた。4号機では二〇一四年に取り出しを終え、3号機は二十八日に取り出しを完了した。一方、1、2号機は取り出しに着手できていない。二〇一九年十二月に改定された最新の工程表では使用済み核燃料の取り出し完了を二〇三一年内とし、当初の目標から十年間先送りされた。
廃炉の最難関とされるデブリ取り出しは二〇二一年に開始するとしてきた。初版から最新の工程表まで堅持されてきた目標で、工程表の最終段階「第三期」に移行するはずだった。だが、英国での作業用機器の試験が新型コロナウイルス感染拡大の影響で停滞しており、二〇二一年の開始を断念した。東電は一年程度遅れる方向で検討しているが、具体的な着手時期は定まっていない。
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汚染水対策では、二〇二〇年内に汚染水発生量を一日当たり百五十トン程度に抑制するとした工程表の目標を達成した。汚染水は1~3号機でデブリを冷却するための注水によって発生し、流入した地下水や雨水が加わることで増え続けている。東電は原子炉建屋の周囲の地盤を凍らせ、建屋への地下水の流入を防ぐ「凍土遮水壁」や地下水のくみ上げ、敷地の地面の舗装で雨水の地下への浸透を防ぐなどして抑えてきた。
汚染水はセシウム吸着装置や多核種除去装置(ALPS)などでほとんどの放射性物質を取り除けるが、トリチウムは除去できず、処理水が増え続けている。
最新の工程表では二〇二五年内に一日当たりの汚染水発生量を現在の百五十トン程度からさらに五十トン少ない百トン以下に低減させる目標を掲げている。1号機の原子炉建屋上部全体を覆うカバーの設置を進め、雨水などの流入防止に取り組み、処理水の総量の抑制につなげる。
一方、処理水の処分方針は未定のままだ。処理水のタンクで敷地は逼迫(ひっぱく)しており、廃棄物の置き場の確保などを含めた廃炉作業全体への影響が懸念される。
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角山茂章県原子力対策監は原子炉建屋の老朽化をはじめ、廃炉作業の長期化により新たな課題が顕在化してくる可能性を指摘する。角山氏は「廃炉の全体像を踏まえて完了時期を示すべきだ。次々と課題が噴出する中、最長四十年で廃炉を完了するという目標を守るには、今何ができるかという意識を現場で共有する姿勢が欠かせない。廃炉作業の進捗は地域の復興に直結する」と念を押す。
東電は「廃炉の完了見通しを示すことは重要だが、最難関とされるデブリ取り出しは、その状態がどういうものかさえ分かっていない状況だ。廃棄物の具体的な処分に向けた方針なども踏まえて検討されていくものだと考えている」としている。