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【ふくしま現在地】(4)「浜の復興」 インフラ整備、着々と 住民帰還、にぎわい期待

2021.03.04 11:12
4日に先行解除から1年を迎えた双葉町のJR双葉駅。西側では宅地造成が進む

 東日本大震災と東京電力福島第一原発事故発生から十年。復興を支える社会基盤の整備は急ピッチで進められてきた。二〇一五(平成二十七)年に常磐自動車道が全線開通。二〇二〇(令和二)年にはJR常磐線が九年ぶりに全線運転を再開し、浜通りで縦軸の整備が進んだ。中通りと横軸で結ばれる東北中央自動車道「相馬福島道路」でも二月十三日の余震の影響を乗り越え、全線開通に向け工事が進む。整えられたインフラを住民帰還、にぎわい再生にどうつなげるのか、被災地の課題として問われている。

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 二〇二〇年三月十四日に富岡-浪江駅間(二〇・八キロ)の運行を再開し、原発事故発生以来九年ぶりに全線開通したJR常磐線。浜通りの復興加速や住民帰還の促進、沿線の観光振興や経済活性化が期待されている。沿線地域では、駅周辺を中心に居住や交流環境整備の動きが活発化している。

 四日で帰還困難区域の一部先行解除から一年を迎えた双葉町。特定復興再生拠点区域(復興拠点)内にあるJR双葉駅は、全線再開通に合わせ、新駅舎が供用開始となった。

 東側から駅舎に入り、東西自由通路を使って西側へ降りると、広大な更地が目に飛び込む。住民帰還のために宅地を造成する重機の音が響く。東側には町役場仮設庁舎設置が計画されており、双葉駅を中心とした市街地形成を進めている。

 浪江町は、公民館や図書スペースなどを備えるまちづくり支援施設、介護関連施設、アスレチック施設の三つの公共施設を、浪江駅西側に一体的に整備する。二〇二二年春に供用を開始する予定だ。駅周辺開発の事業素案では、東側に居住、交流、商業環境を整えるとしている。

 一方で、五日で先行解除から一年となる大熊町の大野駅周辺は、ほとんどの家屋や商店が震災発生直後の姿のままだ。駅東口から六号国道につながる町道などは許可証なしで車の走行が可能だが、道路に面した家屋などの避難指示は維持されているため、多くのバリケードが残っている。

 大熊町は二〇一九年五月、大川原地区に町役場新庁舎を開設した。同地区には町営復興住宅が立ち並び、今年二月には町診療所が開所した。

 二〇二二年春を目指す復興拠点全域の避難指示解除に伴い、町は大野駅周辺を再開発する予定だ。かつて中心市街地だった駅周辺と大川原地区という、二つの拠点を結び付けた地域振興を目指す。

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 相馬市と中通りを結ぶ東北中央自動車道「相馬福島道路」(総延長四五・七キロ)は、早期復興への重要事業に位置付けられている。すでに全体の約78%の三五・五キロが通行可能。県内の横軸を結ぶ「命の道」への期待は大きい。

 国土交通省東北地方整備局によると、相馬福島道路の整備によって、相馬市から福島市の福島医大までの搬送時間は約二十五分短縮される。相馬市、南相馬市、新地町の沿岸部には第三次救急医療施設がなく、救急医療活動に大きな役割を果たす。

 全線開通すれば、東北中央、東北、常磐、山形の南東北三県の高速環状線がつながる。福島、宮城、山形の三県が連携した観光誘客、物流の円滑化が期待できるだけでなく、災害などで一部が通行止めとなっても、迂回(うかい)の選択肢が増える。

 相馬福島道路が相馬インターチェンジ(IC)で接続するのが常磐自動車道。二〇一五年に全線開通し、現在はいわき中央-広野IC間で四車線化工事が進められている。

 日中に常磐道を通行すると、交通量は少なく、工事中の区間であってもスムーズに流れる。一方、中間貯蔵施設への除染廃棄物の搬入や福島第一原発の廃炉作業、復興事業による工事車両の増加で、朝夕の交通渋滞が課題となっている。四車線化により渋滞解消、復興事業の加速、災害発生時の対応強化が期待される。

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 二〇二一年度から五年間の「第二期復興・創生期間」に入る。復興拠点は双葉、大熊、葛尾の三町村が二〇二二年春まで、浪江、富岡、飯舘の三町村が二〇二三年春までの避難指示解除を目指している。

 鉄道や高速道路に加え、新常磐交通(本社・いわき市)が四月から富岡、大熊、浪江の三町を結ぶバス路線を新設するなど、交通インフラは整いつつある。今後は交通網を住民帰還にどう結び付けるかが鍵を握る。

 復興庁などが二〇二〇年、双葉、大熊、富岡、浪江、川俣の五町を対象に実施した住民意向調査で、帰還を迷っている住民に「帰還を判断するために必要な条件」を尋ねると、医療・介護福祉施設の拡充や、商業施設の充実などが上位を占めた。特に大熊町では、72・9%が「病院、道路、公共交通などの社会基盤(インフラ)の復旧時期のめど」と回答した。

 大熊町からいわき市に避難している六十代男性は「住民の帰還がないと復興とは呼べない」と指摘し、「生活基盤が80%程度戻り、普通の生活ができるようにならないと戻る気にはならない」と漏らした。町担当者は「あらゆる人が住みやすい町を目指し、大川原地区、大野駅周辺のインフラ整備を進めていく」としている。