東日本大震災と東京電力福島第一原発事故の発生から10年の節目に被災地からのメッセージを発信する「復興の軌跡とこの先の挑戦」は10日、東京都新宿区の日本青年館ホールで開かれた。郡山市のあさか開成高の生徒4人は真の復興を実現させる決意を表明。風化も懸念される中、県内の現状を発信し続けると誓った。
「古里のために、誰一人取り残さない未来をつくりたい」。宍戸永実さん(3年)、中野希瑛さん(同)、大和田麗さん(2年)、須藤聖菜さん(同)はステージ上で自らの経験を披露しながら復興に向けて県民が助け合ったり、知恵を出し合ったりする大切さを強調した。
■避難者と交流、体験談発表
宍戸さんは復興は着実に進んでいると思っていた。しかし、双葉郡から郡山市に避難している障害者と就労支援施設で一緒に作業をして交流する中で、「古里に帰りたい」という言葉を聞き、原発事故は終わっていないと思い知らされた。
小物作りで「双葉」の文字を懸命に刺しゅうする姿に胸を打たれた。「多くの人が古里を思い苦しんでいる。それでも必死に前を向こうとしている。そんな人たちがいることを忘れてはならない」。自らに言い聞かせている。
須藤さんは防災・減災意識の向上の必要性を呼び掛けた。震災の記憶をつなぐ福島民報社の絵本「きぼうのとり」を授業で読み、「震災の教訓を忘れず、次世代へつなげる使命感が生まれた」と発表した。
中野さんは震災を風化させないため、「きぼうのとり」をデザインしたエコバッグを発案し、浜通りから避難してきた障害者と一緒に作った活動を報告した。「きぼうのとりが(私たちを)つないでくれた」と振り返った。
大和田さんは福島民報社の「ふくしま復興大使」としての活動で、県産食材を使ったオリジナルの和菓子開発の準備を進めている。「(県産品の)おいしさをみんなに知ってほしい」。風評払拭(ふっしょく)につなげる思いを熱く語った。
■震災の記憶次代に 県内4信金、民報社など共催
イベントは城南信用金庫と、県内の会津、ひまわり、あぶくま、福島の4信用金庫、東京新聞、福島民報社などの共催。震災と原発事故の記憶を風化させず、経験を発信し、次の世代に伝え続けるのが狙い。5月に開催予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期されていた。
リレーメッセージとして、いわき市の内田広之市長、矢祭町の佐川正一郎町長、双葉町の伊沢史朗町長、飯舘村の杉岡誠村長が震災後の歩みや課題、今後の展望を語った。福島市の木幡浩市長もビデオ出演した。
このうち伊沢町長は原発事故後の10年を振り返った上で「自然と共生し、災害に強いまちをつくる。町の復興に関心を持ち、ぜひ訪れてほしい」と呼び掛けた。内田市長は人口流出の課題を挙げ、「若者が首都圏から戻ってくるような魅力ある地域づくりに取り組む」と述べた。
来賓の内堀雅雄知事、中井徳太郎環境省事務次官があいさつした。ノンフィクション作家の柳田邦男さんは「心の再生と地域の発展~絵本の力を見直そう」と題して講演し、支え合う地域づくりなどに向けた絵本の活用について語った。
福島民報社から芳見弘一社長が来場した。