X メニュー
福島のニュース
国内外のニュース
スポーツ
特集連載
あぶくま抄・論説
気象・防災
エンタメ

米国、台湾に売り込み 「いなわしろ天のつぶ」生産、輸出【あすを見つめて】

2022.03.02 14:18
精米したばかりの「いなわしろ天のつぶ」にそっと手を置く土屋さん

■土屋勇雄さん コメ農家、猪苗代町

 猪苗代町のコメ農家、土屋勇雄さん(61)が精米されたばかりの「いなわしろ天のつぶ」を並べる。三月八日から十一日にかけ、千葉県で開かれる国際食品・飲料展「FOODEX JAPAN」に産地の代表として立つ。対面による輸出の働き掛けは新型コロナウイルスの影響で約二年半ぶりとなる。「新たな販路を広げたい」と胸を高鳴らせる。

 狙うのは東京電力福島第一原発事故以降、県産食材の門戸が開かれたばかりの米国、台湾の市場だ。原発事故で風評を受けた後、日本食ブームをみせる海外の富裕層に目を向けた。欧州や中東などの十数カ国を商談などで歩き、いなわしろ天のつぶを「究極のすし米」として寿司ネタとの相性の良さを前面に売り込み、その熱意は現地の料理人らの心をつかんだ。

■ 独自栽培魅力アピール 

 小売価格は通常の天のつぶの約二倍だ。高級路線だからこそ、品質に妥協はない。独自の栽培マニュアルに基づき肥料に含まれる成分、窒素分を制限する。収量は一割ほど少なくなるが、雑味の少ない良食味に仕上げている。粒の厚さも通常の天のつぶより○・一ミリ大きい二ミリ以上のものに厳選している。

 本格的に輸出を開始した二〇一五(平成二十七)年度以来、取引量を右肩上がりで伸ばした。その矢先、新型コロナが世界中でまん延する。「原発事故の風評より影響は大きい」と土屋さんの表情も険しい。外食産業を中心に消費が低迷したことで、輸出量は頭打ちになり、米価も大幅に下がった。「産地の魅力を高めることが今後の農業経営の鍵を握る」と言い切る。

 土屋さんの田んぼは猪苗代湖を見下ろす平地に位置し雪原が広がる。これまで天のつぶの栽培に不適とされた高冷地のハンディ、原発事故の逆風に向き合ってきた。「米づくりは毎年が勉強」。春の雪解けを待ち震災から十二度目の作付けに挑む。