
水田と里山に囲まれた、のどかな地域に、ぽつんと白い建物がある。外観は何かの工場のように見えるが、養殖場だ。阿武隈高地の清涼な水を使い、「ビカーラ」と呼ばれる種類のウナギを育てる。
室内に二基の大型水槽を置いた完全閉鎖型の養殖施設で、水温や衛生面の管理が徹底されている。水槽に酸素を送るポンプの音が静かに響く。屋外での養殖に比べ成育は早く、生存率も高いという。
稚魚はフィリピンなど海外から輸入する。六~八カ月で成魚になる。常時約一万~二万匹が水槽を泳ぎ、年間約一・五トンを活鰻(かつまん=生きたウナギ)や、かば焼きなどの加工品として出荷する。
二〇一五(平成二十七)年に発足した。東日本大震災と東京電力福島第一原発事故の発生がきっかけだ。田村市の一部には避難区域が設定された。新たな特産品で復興を後押ししようと、秋元真樹社長(72)、山下尊宣養殖部顧問・場長(70)が中心となって起業した。
養殖したウナギは「福うなぎ」の名で流通する。取扱店は順調に増え、県内の有名ホテルやスーパーで提供されている。評判は上々で、大口の引き合いもある。山下場長は「『世の中のために』を胸に、一層頑張る」と表情引き締めた。
■メモ
▽設立=2015(平成27)年
▽社長=秋元真樹
▽従業員数=3人
▽住所=田村市滝根町菅谷字矢立松37の1
▽電話番号=0247(61)6657