震災10年、復興加速誓う ふくしま産業賞

2021/02/06 09:08

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表彰式終了後に会場で懇談する鳥井さん(左)と白井さん。産業振興を通し、福島県復興を加速させることを誓い合う
表彰式終了後に会場で懇談する鳥井さん(左)と白井さん。産業振興を通し、福島県復興を加速させることを誓い合う
新たな商品開発に向けて意見を交わす満田さん(右)と星さん
新たな商品開発に向けて意見を交わす満田さん(右)と星さん
互いの取り組みに刺激を受け、さらなる飛躍を誓う小平さん(左)と千葉さん
互いの取り組みに刺激を受け、さらなる飛躍を誓う小平さん(左)と千葉さん
受賞者を前に講評をする内堀知事(右)
受賞者を前に講評をする内堀知事(右)

 五日、郡山市のホテルハマツで行われた第六回ふくしま経済・産業・ものづくり賞(ふくしま産業賞)の表彰式では、受賞した企業・団体の代表や学生が産業振興による福島県の復興加速を誓った。東日本大震災、東京電力福島第一原発事故から間もなく丸十年。業種や世代の枠を超えて挑戦を続け、福島の発展をけん引していく決意を新たにした。

 ■伊達クラフトデザインセンター 福島SiC応用技研(楢葉) 県土発展へ共に尽力

 福島民報社奨励賞を受賞した楢葉町の福島SiC応用技研と、特別賞に輝いた伊達市の伊達クラフトデザインセンターは共に、東京電力福島第一原発事故からの産業復興に軸足を置く。表彰式終了後の懇談で、福島SiC応用技研副工場長の鳥井芳朗さん(69)と、伊達クラフトデザインセンター代表の白井貴光さん(49)は「福島のこれからの十年に共に力を尽くしていこう」と約束した。

 受賞対象となった事業はいずれも原発事故後に始めた。福島SiC応用技研は「産業面で浜通り再生の一助になる」と、被災地で最先端の医療機器を製造する道を選んだ。県産木材を使った製品を生み出している伊達クラフトデザインセンターは「盛んだった福島県の林業を取り戻す」と強い覚悟で臨む。

 困難に負けず、前進に向けて挑戦を続けるという姿勢も共通している。「分野は違っても両社が進もうとしている方向は同じ」と初対面ながら、二人は意気投合した。

 京都市出身で昨年四月から楢葉町に住む鳥井さんは、福島県の豊富な森林資源に感銘を受けたという。県産木材の素晴らしさを知り尽くした白井さんの話を聞き、鳥井さんが「新しい工場を造る場合はぜひ県産木材を使いたい」と夢を描けば、白井さんは「世界最先端の技術の話に大いに刺激を受けた」と改めて挑戦心を高めていた。

 ■今後も連携、福島の食発信 会津天宝醸造(若松)・郡山女子大付高

 特別賞を受けた会津若松市の会津天宝醸造と、学生奨励賞に輝いた郡山市の郡山女子大付属高食物科は、これまでも商品の共同開発に取り組んだことがあり、引き続き連携して福島を盛り上げる思いを共にした。

 郡山女子大付属高はさまざまな県内企業などの協力を得て、商品開発や販売活動などを通して県産食材のおいしさや安全性を発信してきた。会津天宝醸造とも、甘酒やみそを使った「あまざけどらやき」や「みそキャラメル」のスイーツを開発したほか、生徒らが栽培したコメを原料にした甘酒の製造などに取り組んだ。

 表彰式の後、社長の満田盛護さん(61)と、生徒の星凜さん(18)=三年=が対面した。満田さんは、引き続き発酵食品の素材を提供する考えを示した上で「生徒の皆さんが開発したスイーツは低カロリーでとてもおいしかった。若者の感覚、現代に合ったアイデアを取り入れていきたい」と意欲を見せた。

 星さんは「発酵食品を活用した商品開発は難しかったが、とても勉強になった。経験を後輩にしっかり伝え、自分たちが卒業しても活動を続けてほしい」と語った。

 ■一十八日(南会津)・あだたらのちち(二本松) 女性同士互いに刺激

 銀賞を受けた南会津町の一十八日(じゅうはちにち)と、特別賞の二本松市のあだたらのちちは、女性の視点や発想を生かした商品開発で受賞した。

 一十八日南会津オフィスの小平智子さん(43)と、あだたらのちち社長の千葉清美さん(55)はこの日が初対面で、それぞれの企業の取り組みなどを話し合い、お互いの行動力に勇気づけられたという。今後の事業展開に向け、刺激を受けていた様子だった。

 一十八日は枝打ちや下刈りで山に残ったクロモジやスギを原料に、地域と連携しながら和精油を生産・販売している。香りで南会津の魅力を伝えようと、繊細な調合を何度も繰り返し、より良い商品を作っている。

 あだたらのちちは大玉村産の生乳100%のソフトクリーム「きよミルク」を手掛けている。合成添加物を使用せず、子どもからお年寄りまで安心して食べられるのが特長だ。

 二人は「今後も新たな商品開発や販路拡大に励みたい」と声をそろえて飛躍を誓った。

 ■取り組みや展望語る フロンティア・ラボ、福島大おかわり農園・お米プロジェクト 代表がプレゼンテーション

 表彰式では、知事賞に輝いた郡山市のフロンティア・ラボと、学生部門最高賞の吉野彰トロフィーを受けた福島市の福島大おかわり農園・お米プロジェクトの代表者がプレゼンテーションを行い、取り組みや今後の展望などを発表した。

 フロンティア・ラボの副社長渡辺壱さんは国内外の大学との共同研究に基づく製品開発や、知的財産の活用などに重点を置いていると説明。現在、海洋汚染の元凶とされるマイクロプラスチックの分析などに力を入れているとした上で「各研究機関と連携し、課題の解決に貢献していきたい」と意気込んだ。

 同プロジェクト代表の高村爽さん(22)と磯田弥玖さん(20)は、コメの栽培を通じ県産品の信頼を取り戻す活動に取り組んできたと紹介した。会員制交流サイト(SNS)で活動を発信することで、若者が食の安全を考える機会を提供できたと振り返った。磯田さんは「特産品を生かした商品開発を続け、産業を活性化していく」と話した。

 ■栄誉励みに復興後押し城南信金理事長

 復興貢献賞を受賞した城南信用金庫(東京都)の理事長の川本恭治さん(59)は「今回の栄誉を励みに、今後も全国のネットワークを活用しながら福島の復興を後押ししていく」とコメントを寄せた。

 同信金は東日本大震災発生後、被災地の経済再生に向けた商談会「“よい仕事おこし”フェア」などの復興支援を続けている。

 ■内堀知事が講評 受賞団体前に

 表彰式で内堀雅雄知事は受賞団体に対する講評を述べた。それぞれの多様性や挑戦心にあふれる姿をたたえ、「皆さんが明るい未来をつくるトップランナーだ」と、さらなる飛躍を期待した。

 今回のふくしま産業賞の特徴について(1)応募総数が過去最多(2)世代や地域を問わない多様性(3)企業、学生のチャレンジ精神-であるとの考えを示した。

 東日本大震災と東京電力福島第一原発事故の発生から間もなく十年を迎える中、福島県には多くの課題が残っていると指摘。「受賞を契機に今後も活躍され、古里に元気を与えることを願っている」と締めくくった。

 ■吉野彰さんメッセージ 学生部門最高賞受賞者に 地域を思う気持ちが新たな産業へ

 表彰式の席上、ノーベル化学賞を受けている旭化成名誉フェローの吉野彰さんが学生部門最高賞の「福島大おかわり農園・お米プロジェクト」に寄せたメッセージが披露された。

 吉野さんは同プロジェクトが東京電力福島第一原発事故で大きな影響を受けた福島県でコメの栽培から販売、日本酒づくりなど多彩な活動を続けていることを評価。「皆さんの地域を思う気持ちが新たな産業として実り、福島に幸せをもたらす日が来てほしい」と願った。

 ■コロナ対策万全に実施

 表彰式は新型コロナウイルス感染防止対策に万全を期した上で実施した。例年、表彰式後に開いてきた交流会は実施しなかった。出席者は、緊急事態宣言が発令されている首都圏などを除く県内の受賞者らに限定した。登壇者が変わるたびに壇上のマイクと飛沫(ひまつ)防止のアクリル板を消毒した。来場者にはマスク着用と入場時の検温を徹底した。