
双葉町細谷行政区の帰還困難区域にある里山に、真新しい木で組まれた社殿がたたずむ。東京電力福島第一原発事故の発生当時の行政区役員が中心となって二〇一八(平成三十)年八月に再建した羽山神社だ。
地域の五穀豊穣(ほうじょう)などを願うため、明治初期に建立されたと伝えられる。住民の心のよりどころだったが、東日本大震災の地震で損壊した。
細谷行政区は大部分が中間貯蔵施設用地となったものの、羽山神社のある里山は組み込まれなかった。用地内では家屋が次々と取り壊され、除染廃棄物を保管するための施設の建設が進む。細谷の住民の生きた証しを後世に残そう-。古里の風景が変容していく中、行政区の役員らは元の場所で建て直した。
施設整備のため土地を提供した副区長の田中信一さん(70)は「将来、孫たちの世代が帰還を望むかもしれない。中間貯蔵施設は約束の期限までになくなってもらわないと」と語る。
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中間貯蔵施設への輸送対象となっている廃棄物の総量は約千四百万立方メートルとされる。環境省は法で定められた「搬入開始から三十年以内の県外最終処分」に向けて量を減らすため、除染で出た土壌の再生利用を目指している。
帰還困難区域となった飯舘村長泥行政区では、放射性セシウム濃度が一キロ当たり五〇〇〇ベクレルを下回った土壌を農地で使う実証試験が進んでいるが、それ以外は環境大臣室の鉢植えなどに使われているのみだ。南相馬市や二本松市では公共工事に除染土壌を用いる実証事業が計画されたが、地元住民の反発を受けて実施できずにいる。国は道路や農地の盛り土など公共工事で再生利用する方針だが、先行きは不透明だ。
田中さんは「科学的に安全でも、使いたいとは思わないだろう」と住民の気持ちを理解する。だが、再生利用が進まなければ、県外最終処分は困難な状況に陥りかねない。「国は県外でも再生利用を受け入れてもらうため、最大限努力すべきだ。中間貯蔵施設に汚れた土が残り続ければ、古里は元の姿を取り戻せない」。もどかしさが募る。
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町内では昨年三月、避難指示解除準備区域とJR双葉駅周辺の帰還困難区域の一部の避難指示が解除された。東日本大震災・原子力災害伝承館、町産業交流センターが相次いで開館し、復興への歩みが着実に進んでいる。
羽山神社では、再建後すぐに例大祭が催された。十人ほどが集まり、地域の安寧を祈った。今後も毎年、開催していく予定だ。
「東日本大震災と東京電力原発事故により、甚大な損傷を受けた、地域の鎮守である」。神社の前に建てられた石碑には、氏子総代や役員らの名前とともに、そう刻まれている。
「鎮守様を守り続ける。受け継ぐ者が途絶えるような地域にしてはならない」。田中さんは、中間貯蔵施設が役目を終えて更地となり、原発事故前のような美しい古里が復活するよう願う。