【ふくしま現在地】(3)「避難生活」 古里を離れて 生活環境、課題多く 相談者や内容 10年で変化

2021/03/03 21:21

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週2回のサロンで談笑する住民。4町からの避難者が新たなコミュニティーを築いている=郡山市・東原団地
週2回のサロンで談笑する住民。4町からの避難者が新たなコミュニティーを築いている=郡山市・東原団地

 東日本大震災の揺れや津波による住居の損壊、東京電力福島第一原発事故に伴う避難などにより最大で県民約十六万五千人が県内外に生活の場を移した。数は減少しているが、現在も三万六千人超が避難を強いられている。孤独死や関連死、将来への不安|。避難者はさまざまな課題を抱えている。

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 「最近膝が痛くて」「今日はスーパーのお肉が安いよ」。二〇一五(平成二十七)年に整備された郡山市喜久田町の災害公営住宅「東原団地」では、集会所で住民が茶飲み話を楽しむ。二〇二〇(令和二)年十一月現在、大熊、双葉、浪江、富岡各町から避難した七十七世帯百二十八人が入居している。一人暮らしや夫婦二人の世帯が多い。

 団地が完成して間もなく、コミュニティーづくりと生活環境の維持・改善のため団地会が設置された。住民交流創出のため、サロンや季節ごとのイベントを催している。週に二回のサロンではラジオ体操の後、縫い物教室やお茶飲みの時間を設ける。団地会長の吉田里子さん(66)は「何げない会話の積み重ねが悩みを減らしてくれる」と話す。

 二〇一八年春に一人暮らしの六十代男性が部屋で亡くなっているのが見つかった。「孤独死」とみられる。男性は団地会の集いには参加していなかった。

 吉田さんは「コミュニティーに溶け込めない人全員の様子を見るのは無理がある」と苦悩を打ち明ける。孤独死が判明した後に、入居者の連絡先を団地会長が把握する仕組みを作った。「役員の負担と責任は増しているが、結束して踏ん張りたい。今後、入居者の高齢化が進むと孤独死の危険性が増す。細やかな見守りを続けたい」と語る。

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 県の委託で被災者支援に当たる「ふくしま心のケアセンター」の平信二副所長(62)は「県民が受けた心の傷は今なお深く残る。加えて、環境の変化により新たな課題が生まれている」と語る。

 同センターは基幹センターと県内六カ所に方部センター、出張所を設けている。看護師や保健師、社会福祉士らが訪問や電話で相談業務に当たる。二〇一四年度に千六百十七人だった相談人数は二〇一九年度、五百六十八人にまで減った。一方、相談件数は二〇一四年度が六千百六十六件、二〇一九年度が六千百五十七件とほぼ横ばいで推移している。長期避難の間に抱える問題が深刻化し、一人当たりの相談が増えたとみられる。

 相談内容は十年で変化してきた。同センターによると、震災直後は仮設住宅など住居の不満や経済的不安、震災・原発事故に関する喪失とストレスに関する相談が多かった。住民の古里への帰還や災害公営住宅の整備が進むにつれ、転居に起因した悩みが多くなった。帰還先に住民が戻らず孤立する、人間関係の構築がうまくいかないといった悩みが寄せられている。若い世代の相談も増えた。自分は精神的に問題ないと思っていた二十代、三十代が進学や就職、出産などを契機に、急に心を病む事例が見られるようになった。

 県や市町村は各社会福祉協議会などと連携し、巡回活動などを通じて住民の悩み把握に努め、対応してきた。避難自治体の支援では、役場機能の帰還や町村外拠点の縮小・移転などに伴い、目が行き届きにくくなっている側面もある。

 さらに、復興を支える人材にも影響が出ている。平副所長は「被災地の役場職員が精神的に苦しむケースが出てきた」と注意を向ける。古里の役場機能が復活し、避難先と職場間の長時間通勤のストレスや、単身赴任による孤独感が増しているという。

 「深い悩みは関連死、自殺につながる場合がある」。震災後の避難生活による体調悪化や過労など間接的原因で亡くなる関連死者数は二月五日現在、二千三百十六人に上る。岩手県の四百七十人、宮城県の九百二十九人と比べ際立って多く、福島県特有の原発事故の長期避難に起因するとみられる。震災に関連した県内の自殺者は二〇二〇年十二月末現在、累計で百十八人。昨年も三人が自ら命を絶った。切れ目のない支援が課題で、平副所長は「相談内容がさらに変化するであろう十年、二十年先を見据え、関係機関がきめ細かく情報を共有する必要がある」としている。

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 住宅の整備、古里の除染が進み、避難者の数はピーク時よりも減ったが、避難者数の集計方法の違いが県と市町村の間で生じている。県は一月現在の避難者数を三万六千百九十二人としている。しかし、県内の各自治体が避難者として扱っている総数は少なくとも六万七千人超に上る。避難自治体の担当者は「避難者が減ってきたという印象が全国的に広まると、震災の風化や将来的な支援策の打ち切りが懸念される」として、県に対し実態に合わせた数の公表を求めている。

 県は県内避難者とする扱いについて、仮設住宅を出て災害公営住宅に入った人などを除外している。市町村の集計はさまざまで、本人の意思表示、住民票の移転で避難を終了としたり、国のシステムを通じて把握したりしている。

 浪江町では、震災発生時に住民登録し、帰還していない人は今でも避難者と扱う。町によると、一月三十一日現在の避難者数は県内一万四千二十一人、県外六千五十一人で合わせて二万七十二人となっている。県は県内の避難者数を三百二十六人としており、町の数と大きな開きがある。