【ふくしま現在地】(5)「震災後の健康」 各種指標で低迷続く 「健康長寿県」実現へ注力

2021/03/05 11:16

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県民の健康問題について語る及川院長。震災直後から現在まで、被災者の健康について考え続けている
県民の健康問題について語る及川院長。震災直後から現在まで、被災者の健康について考え続けている

 東日本大震災と東京電力福島第一原発事故後、県民の各種健康指標は低迷している。避難などに伴う生活環境の変化が要因の一つだ。被災地の医療現場では、住民の健康を改善するため独自の取り組みが続く。主要な健康指標のうち、がんや糖尿病、脳卒中などの生活習慣病の要因となる県民のメタボリック症候群該当者の割合は二〇一八(平成三十)年度、18・1%で都道府県別ワースト四位。県は「全国に誇れる健康長寿県」の実現に向け、県民の健康状態改善に注力する。

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 震災発生当時から相双地方の医療の最前線に立ち、被災者の健康を支えてきた南相馬市立総合病院の及川友好院長(61)は浜通りで生活習慣病受診率が高い傾向にあることに触れ、「震災や原発事故の影響が間違いなくある」とみる。避難先から古里に戻った浜通りの住民を今後も社会が一体となって見守っていく必要性を唱える。

 震災後、仮設住宅などを訪問した。避難生活での環境変化によるストレスの増加や食生活の激変が被災者の身体に悪影響を及ぼしているのを間近で見てきた。常用していた薬が避難先でなかなか入手できず、体調を崩した例も数多くあったという。

 震災後に不眠やストレスから発症する「災害高血圧」も医師らの間では知られている。震災後三カ月程度、血圧が上がる被災者が増え、降圧剤などでの対処が必要になった。「血圧はすぐに検査できるので、異常が比較的発見しやすい」と及川院長は語る。その上で、「震災当時の混乱の中、血液や内臓の異常など、しっかり検査しないと分からない異変は見つけづらい。持病を悪化させた避難者は多かっただろう」と振り返る。

 震災直後から南相馬市の仮設住宅を訪れ、健康教室を定期的に開いてきた。現在も復興公営住宅の集会所に自ら赴き、被災者の相談に乗っている。震災後十年が間もなく経過する今でも風評や原発事故への恐れが残り、「被災者がつらい思いをしていることがまだある。精神面への影響が気に掛かる」と言う。帰還住民に高齢者が多く、若者が異常に少ないいびつな形になっているとし、「震災前と比べて社会全体の介護力が落ちている」と危惧する。

 健康相談に加え、塩分を減らした食生活の重要性も呼び掛け続ける。一方、「話を聞いてくれるのはそもそも健康に関心のある人。そうでない人にも予防の大切さを伝えたい」と課題を挙げた。

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 県は昨年四月、二〇一七年度の主な生活習慣病による県民の医療機関の受診率状況を六つの二次医療圏ごとに分析した結果を初めて公表した。県全体の受診状況を「100」とし、診療・調剤記録や診療内容を分析し、主な生活習慣病ごとの数値を算出した。

 ビッグデータを活用し、これまで感覚的、経験的にしか分かっていなかった県民の健康状態を「見える化」するのが狙いだ。糖尿病や脂質異常症、高血圧などの受診率は浜通りで高く、会津地方では低い傾向を示すなどの特徴が見られた。結果を基に市町村などと連携を強化し、効果的な施策を展開する。

 昨年七月には、県民の二〇一六年度の特定健診結果を県内六つの二次医療圏ごとに分析した健康指標【図】も公表。メタボリック症候群該当割合の指数は相双、いわき、会津・南会津で県平均より高く、中通りで低い傾向が浮き彫りとなった。生活習慣病による受診率と同様に、浜通りで高い傾向が確認できた。

 浜通りで特にメタボリック症候群該当者などの割合が高い理由について、県健康づくり推進課は「震災や原発事故をきっかけに、避難などで生活が一変してしまった影響が出ている」と分析する。ビッグデータを用いた調査で、避難によるストレスや食生活の変化が与えた影響が「数字で示された」としている。

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 県はビッグデータを用いた「健康データベース事業」を今後も継続する。県民の健康に関するデータを蓄積し、地域ごとの課題を数字ではっきりと示すことで健康問題の解決につなげる。

 市町村ごとに生活習慣病受診率や特定健診結果を示すことも可能で、市町村と協力して地域に合った予防策を取れるようにする。県健康づくり推進課は「普段健診に行かない県民が多くいる。データを提示することで、自らの健康状態に関心を持つきっかけになれば」としている。

 及川院長は、本県の健康問題の解決には「行政ぐるみの啓発が不可欠」とする。さらに、「浜通りはまだまだ医師不足。医師も住みたくなるような町づくりが必要になる」と指摘した。