【ふくしま現在地】(6)「山林再生」 除染実施、一部のみ 全体困難、関係者に諦めの声

2021/03/06 15:27

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里山再生モデル事業で折れたスギの木を撤去する作業員=2016年、川俣町
里山再生モデル事業で折れたスギの木を撤去する作業員=2016年、川俣町

 東京電力福島第一原発事故に伴う帰還困難区域以外の生活圏の面的除染は終了し、県内では汚染土壌を中間貯蔵施設に搬入する作業が進む。一方、県土の七割を占める山林の再生に向けては課題が山積している。全体の除染は治水や生態系などの観点から困難な状況で、国は里山再生事業を進めているが実施範囲は一部にとどまる。関係者からは「悔しいが、諦めるしかないのか」との声が漏れる。

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 面的除染は宅地や農地、道路などで進められた。森林除染について、国は放射性物質汚染対処特措法に基づく除染の基本方針などで生活圏から二十メートル以内の範囲に限定した。そのため、範囲外の森林は除染がほぼ手付かずとなっている。

 環境省は生活圏から二十メートル以上離れた山林を除染しない理由の一つに、原発事故発生後に実施した実証試験結果を挙げる。生活圏に加え、生活圏から二十メートル以上離れた範囲まで除染し、その効果を検証した。五~十メートルまでの森林除染は生活圏の空間放射線量低減に効果的で、生活圏の線量は約24・4%下がった。範囲を広げ、生活圏から二十メートルまで除染した場合は24・1%減、三十メートルでは22・5%減、四十メートルでは24・2%減とほぼ横ばい。「二十メートル以上の範囲に拡大しても、生活圏の線量に大きな影響は認められなかった」としている。

 森林ならではの除染の難しさも背景にある。環境省によると、森林除染の手法は地表に積もった落ち葉などの堆積物の除去が基本となる。地表の堆積物を除去することで山の治水機能が低下し、土砂崩れなどを引き起こす可能性が高まるという。腐葉土など「山の栄養分」も一緒に取り除かれるため、「生態系を壊す恐れがあり、容易に除染できない」としている。

 森林除染は宅地や農地などと異なり、表土の入れ替えや高圧洗浄なども困難で、除染による線量の低減率は宅地などに比べると低い。環境省のまとめでは、除染後の線量は宅地で60%、農地で59%、道路で44%それぞれ低減することが確認されたが、森林は30%減にとどまる。

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 除染を望む県民の声を受け、国は二〇二〇(令和二)年度、森林の環境回復の柱と位置付ける里山再生事業をスタートさせた。復興庁、林野庁、環境省、市町村が連携し、地表の堆積物除去による除染に加え、間伐や表土流出防止柵の設置など森林整備を一体的に進める。二〇一六(平成二十八)年度から計八百ヘクタールで実施したモデル事業の結果、放射線量は3~41%減少し、一定の効果があると確認された。

 ただ、全ての里山再生は人的にも、費用面からも実現するのは難しいのが実情だ。里山再生事業は森林公園やキャンプ場、遊歩道、キノコ栽培場など「住民が身近に利用してきた里山」を対象としている。森林の早期除染を求める自治体は比較的線量の高い東電福島第一原発の周辺地域だけではなく、県内の広範囲に及ぶ。そのため、国は実施対象を県内四十八市町村とした。内訳は放射性物質汚染対処特措法に基づき国が直轄で除染する除染特別地域の十一市町村、市町村が主体となって除染する汚染状況重点調査地域の二十九市町村、同地域の指定が解除された会津地方の六町村と県南地方の二町としている。

 里山の除染後に住民の利用や適切な管理、放射線量の低減などが見込まれることが実施要件となる。大規模な場所は国直轄除染が可能で、一自治体の中で複数箇所の実施も認めるのが特徴だ。第一弾として郡山、会津美里、楢葉、飯舘、富岡、浪江の六市町村の八カ所計五百三十一ヘクタールが選定された。新型コロナウイルス感染拡大の影響で現地調査が遅れるなどしたため、本格的な作業は二〇二一年度以降となる見通し。国は今後も市町村の意向に応じ、実施範囲を広げていく。

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 山林に残る放射性物質は野生キノコなどに取り込まれる。棚倉町の山本松茸組合は二〇一一年秋から恒例の「きのこまつり」の中止を余儀なくされたままだ。

 マツタケのモニタリング検査で、放射性セシウムが食品衛生法の基準値(一キロ当たり一〇〇ベクレル)を上回る状況が現在も続いている。組合は山に入るための道路整備を毎年、実施しているものの、原発事故以降、山は野放し状態のまま。住民からは「森林除染をしなければマツタケの放射性物質濃度は下がらない」との声が上がっている。

 組合長の金子政之さん(74)は「毎年、収穫を楽しみにしていたが、広大な面積を除染するのは、ほぼ不可能だろう。時間の経過で線量が下がるのを待つしかないのか」と悔しさをにじませる。

 県によると、県内の森林内の空間放射線量は時間の経過とともに低下している。原発事故発生後、毎年調査している三百六十二地点の線量の平均値は二〇一九年度が毎時〇・二〇マイクロシーベルトで前年度から〇・〇三マイクロシーベルト下がった。ただ、最大値は毎時一・〇九マイクロシーベルトで、県内各地に比較的線量が高い地点が点在している。