【官製風評 処理水海洋放出】政府の指導力問う声 「東電に任せて大丈夫か」 相次ぐ不祥事、不信感増大

2021/04/11 16:14

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 政府が東京電力福島第一原発で増え続ける放射性物質トリチウムを含んだ処理水の海洋放出方針を固めた一方、海に流す作業を担う東電では不祥事が相次ぐ。政府の処分方針決定の動きへの反発や東電に任せて大丈夫かとの不信感が高まる中、海洋放出への国民の合意形成は困難を極める。理解を得ぬまま海洋放出を強行すれば、新たな風評被害を県民に押し付けることになるとの指摘もある。識者は「東電への疑念の声は当然だ。東電に対する政府の指導力が問われている」と注文する。


 七日、首相官邸。菅義偉首相の斜め前の位置に座った全国漁業協同組合連合会(全漁連)の岸宏会長は、海洋放出に断固反対の立場をあらためて伝えた。官邸で記者団に囲まれ、その理由の一つとして東電による相次ぐ不祥事を挙げた。「安全性への極めて強い懸念がある」

 核物質防護に対する甘さを幾度も露呈した東電。福島第二原発で二〇一六(平成二十八)年に侵入検知器の警報機能を鳴らないように設定し、原子力規制委員会から核物質防護規定の順守義務違反として厳重注意を受けた。再発防止の徹底を約束したにもかかわらず、新潟県の柏崎刈羽原発では昨年三月以降、計十五カ所でテロ目的などの侵入を検知する設備の故障を放置した上、代替措置も不十分で、規制委から是正措置命令を受ける見込みだ。

 情報発信の不誠実さや隠蔽(いんぺい)体質への懸念を指摘する関係者も少なくない。東電は当初、福島第一原発の汚染水はトリチウム以外の六十二種類の放射性物質を除去していると強調してきた。しかし、二〇一八年八月、処理水の扱いを議論する政府小委員会が設けた公聴会の直前に、ヨウ素129やルテニウム106など複数の放射性物質が排水の法令基準値を超えて残存していることが発覚した。東電の情報発信に対する信頼は大きく揺らぎ、公聴会は荒れた。

 今年二月には福島県沖を震源とする最大震度6強の地震の際、処理水を保管するタンクの位置にずれが生じた。しかし、東電は「水漏れや設備の損傷ではない」として即時に公表しなかった。さらに、3号機に設置していた地震計二基の故障を修理せずに放置し、福島県沖地震のデータを記録できなかった。今月に入り、原発構内のコンテナ約四千基の内容物を把握しないまま放置してきた実態も判明した。

 南相馬市で電気器具の製造会社を経営する鈴木力さん(68)は「東電は都合の悪い事実を常に隠してきた。処理水が安全と言われても信じられない」と東電への不信感を口にした。

 原子力規制庁安全規制管理官付技術参与の経歴を持つ高坂潔県原子力対策監は「東電は昔から正確な情報をタイムリーに出していない」と指摘し、政府による監督機能の強化を求めている。

 処理水の海洋放出には決定後、規制委の認可や東電の準備工事などに二年程度必要になるとされる。そして、政府と東電は処分を始めることになる。