【官製風評 処理水海洋放出】政府に対策できるのか 安心の醸成不可欠 小売業者ら買い控え懸念 

2021/04/16 15:06

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県産魚介類を手にする野中さん。処理水海洋放出による消費者の買い控えを懸念する=福島市
県産魚介類を手にする野中さん。処理水海洋放出による消費者の買い控えを懸念する=福島市

 東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出方針決定を受け、内堀雅雄知事が政府に万全な風評対策などを要望した十五日、県民や小売業者からも、持続的で実効性のある施策を求める声が上がった。原発事故から十年が過ぎても根強い風評が残る中、海洋放出されれば、さらに長期にわたり影響を受けかねない。小売業者や消費者団体の関係者は「買い控えが再燃するのではないか」との懸念を抱く。

 福島市のコープふくしまいずみ店の鮮魚売り場には十五日、相馬沖や松川浦で水揚げされたシラウオ、ナメタガレイ、アサリなどが並んだ。買い物客は鮮度を確かめ、次々と買い求めていた。原発事故の発生後、県内で水揚げされた魚介類が当たり前のように店頭に並び、消費されるようになるまでには、関係者の並々ならぬ努力があった。

 コープふくしまは二〇一二(平成二十四)年六月に福島県沖で試験操業が始まると、すぐに仕入れを再開した。魚を取っても売れなければ漁業者の努力は水の泡-。経営陣や従業員の思いが一致した。放射性物質検査で安全性が確認された魚介類を取り扱った。

 それでも、消費者からは「食べても大丈夫なのか」との疑問の声が寄せられた。買い物客が自ら選べるよう、店では可能な限り県内産と他県産を並べて販売した。コープふくしまを展開するみやぎ生協副理事長でふくしま県本部長の野中俊吉さん(62)は「安全性は検査で証明できても、安心感は人それぞれに異なる」と指摘する。

 コープは二〇一一年度から、県内の家庭の食事に含まれる放射性物質の測定を継続している。十年間で延べ千百五十世帯を調べたが、検出限界値(一キロ当たり一ベクレル)を超えたのは二〇一一~二〇一三年度の延べ二十五世帯にとどまっている。その後は全世帯で検出限界値未満が続く。こうした情報を積極的に発信し、消費者の安心感を醸成してきた。

 ただ、処理水が海洋放出されれば、県産食品の安全性を問う声が再び高まる可能性がある。さらに放出は長期にわたる。野中さんは「これまでの十年でも大変だったのに、さらに長い時間と風評対策が必要になる。政府や東電にそれができるのか」と疑問を投げ掛けた。その上で「漁業者や農家のこれまでの努力を無にしないためにも、政府は海洋放出を見送り、別の方法を考えるべき」と強調した。

 消費者の受け止めもさまざまだ。福島市の無職桜井ケイ子さん(72)は県産の魚を頻繁に購入している。「海洋放出は県産の魚離れにつながりかねない。国と東電は漁業者や県民の声を広く聞き、消費が落ち込まないような対策を講じてほしい」と切望した。

 二児の母である、いわき市の看護師女性(40)は原発事故の発生後、県外産の野菜の宅配サービスの利用を始めた。最近は地元のスーパーで野菜や肉を買うようになったが、県内産は安全とは分かっていても、何となく不安に思い避けている。「海洋放出されれば、さらに買わなくなるかもしれない」と本音を明かした。


■県外からの風評心配 県消費者団体連協


 消費者庁が一月に実施した原発事故に伴う消費者意識の実態調査で、放射性物質を理由に食品の購入をためらう産地に関する質問で「福島県」との回答は8・1%と過去最少だった。二〇一三年二月の第一回調査で「福島県」と回答したのは19・4%で、原発事故から十年が経過した中で徐々に収まりつつある一方、いまだに「福島」との理由だけで消費者の約一割が県産品を遠ざける実態がある。

 県消費者団体連絡協議会事務局長の田崎由子さん(65)は処理水の海洋放出方針決定を踏まえ「県外の人は県民に比べ、断片的にしか処理水のニュースに接しない。県外からの風評が強まるのではないか」との見解を示した。