論説

【津島小の巡回展】風化防止の力に(10月22日)

2021/10/22 09:18

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 東京電力福島第一原発事故に伴い、二本松市に仮校舎を置いた浪江町の旧津島小が取り組んだ郷土学習の成果展が関西地方を巡回している。古里を追われた児童の作品から鑑賞者は何を感じ取るのか。東日本大震災と原発事故の風化が懸念される中、復興道半ばの被災地の活動を伝える意義は大きい。

 巡回展は大阪、滋賀、兵庫三府県にある大学、博物館など六施設を巡っている。どの会場も地域の文化拠点だ。第一弾は大阪府の高槻市自然博物館で九月十八日から今月十七日まで開催された。新型コロナウイルスの緊急事態宣言下で開幕したが、一カ月間の会期中に約六千人が訪れた。

 館内には旧津島小の郷土学習「ふるさとなみえ科」の授業で児童が調べたり、作ったりした郷土かるたや大堀相馬焼など約百六十点が並んだ。学校の足跡をまとめた年表も掲げた。いずれも今年二、三月に二本松市で催した成果展「十年間ふるさとなみえ博物館」で展示された作品だ。昨年度末の閉校を前に最後の卒業生が学びの集大成として手掛けた。

 自然博物館では、来館者から「学校も避難していたとは知らなかった」「子どものために古里を元通りにできないか」「忘れかけていた原発事故の記憶がよみがえった」などの声が寄せられたという。

 関西地方でも今年三月は震災十年を迎えた本県の様子がテレビや新聞で手厚く報じられた。しかし、その後は第一原発で増え続ける放射性物質トリチウムを含んだ処理水のニュースがたまに流れる程度だと聞く。復興へ歩む県民の姿や県内の魅力などの情報が十分に届いていないのが残念だ。それだけに、巡回展は福島に目を向けてもらう貴重な機会といえよう。博物館は開催を契機に、利用者向け広報紙に本県の情報を定期的に掲載できないか検討している。

 巡回展は、鑑賞者に防災意識や郷土教育の大切さも伝えている。児童が浪江町と二本松市の伝統文化を住民から学んだ郷土学習は、地域への関心を高める好例として各方面から評価を得ている。

 二十五日に大津市の龍谷大瀬田学舎で巡回展第二弾が始まる。その後は大阪府大東市、滋賀県東近江市、大阪府岸和田市、兵庫県伊丹市で順次開催される。来年六月の全日程終了後、六施設は共同の報告書をまとめる。そこには現地の反応、意見、展示物の評価などが書き込まれるだろう。本県側としても報告書を参考に展示物の有効活用や保存方法などを検討しなければなるまい。(角田 守良)