論説

【観光商品開発】「音楽の力」を生かそう(11月24日)

2021/11/24 08:58

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 新型コロナウイルスの感染が落ち着き、観光振興策の議論が活発化している。政府は観光支援事業「Go To トラベル」の再開準備に入った。全国各地で新たな旅行商品開発の動きが加速するなか、本県も特長ある企画を打ち出したい。福島が全国に誇る「音楽の力」を観光に生かせないものか。

 近年、ミュージックツーリズムが注目を集めている。文字通り、音楽をテーマにした観光旅行だ。音楽家の生誕地や歌の舞台を巡ったり、音楽イベントを楽しんだりする。これだけなら、今までも行われてきたが、宿泊、食事、土産などを戦略的に組み合わせた旅行商品に仕上げれば、地域経済の活性化につながる。

 新型コロナが猛威をふるう前、青森市の旅行会社が「ご当地ソング体感ツアー」を企画した。演歌ショーと歌の聖地巡りを満喫する内容で、首都圏からの観光客が相次いだ。来県者が減少する冬期間に実施し、交通、宿泊業者などを潤わせた。

 県内はミュージックツーリズムの受け皿となる素材に恵まれている。NHK連続テレビ小説「エール」で福島三羽がらすのモデルとなった古関裕而、野村俊夫、伊藤久男さんをはじめ、佐々木俊一、猪俣公章、市川昭介、丘灯至夫、春日八郎、霧島昇さんら歌謡史に名を残した作詞家、作曲家、歌手を数多く輩出した。それぞれの生誕地には活動の原点となる物語が宿る。さらに「みだれ髪」「高原列車は行く」「荒城の月」など不朽の名曲の舞台もある。

 生誕地や舞台には歌詞などが刻まれた記念碑が立っている。音楽研究家の山内繁さんによると、これらの歌碑は県内に三十基ほどある。東北で最も多く、国内でもトップクラスだという。これらの「点」を他の観光資源とつなげれば「線」や「面」となり、広域的な旅行商品として売り出せる。そのためには関係自治体の連携も欠かせない。

 県内で開催されるイベント「風とロック芋煮会」「オハラ☆ブレイク」「白河まちなか音楽3Days」などは県外からも注目を集める。合唱のコンクールや発表会も国内最高水準の歌声を生で聴ける絶好の機会だ。これらも観光資源と言えるだろう。

 県は東日本大震災と東京電力福島第一原発事故の被災地を学ぶ旅行「ホープツーリズム」の普及に力を入れる。ただ、旅行の多様化、細分化が進むなかで観光立県を目指すには、さらなる資源の発掘が不可欠だ。「音楽の力」は県内観光を成長させる可能性を秘めている。(角田守良)