宮沢賢治とやませ(12月6日)

2021/12/06 09:22

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 宮沢賢治の詩「雨ニモマケズ」に「サムサノナツハオロオロアルキ」という一節がある。夏の寒さは稲に冷害をもたらす。凶作になってしまうと分かっていても、自然を相手になす術[すべ]もない。賢治は農家のやり場のない気持ちを表現したのだろう▼冷夏の主な原因は「やませ」とされている。北東からの冷たい風を指す。賢治が生まれた岩手県、本県など東北地方の太平洋側を中心に吹く。江戸時代の飢饉[ききん]の記録に既に「山背」という言葉が出てくる(卜蔵建治著「ヤマセと冷害」)。昔から農家の悩みの種だったに違いない▼南相馬市の企業や福島大が先月から始めたのは、やませの到来を予測しようという試みだ。年明けにも浜通り各地で実験を本格化させる。小型無人機(ドローン)に気象を観測する装置を付け、海に飛ばす。温度や湿度、風速などを計測する。コンピューターで分析し、やませが来る条件を導き出す▼実験に乗り出したのは、冷害で苦しむ農家を少しでも減らしたいという思いだった。やませの時期が事前に分かれば必要な対策を取ることもできる。福島発の取り組みで近い将来、風にも負けず安心して歩ける夏が来るかもしれない。