論説

【国際教育研究拠点】研究内容の具体化急げ(12月7日)

2021/12/07 09:18

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 浜通り地方に整備される国際教育研究拠点を巡り、政府は先月末、福島復興再生特別措置法に基づき運営を担う特殊法人設立を決定した。組織形態はようやく決まったとはいえ、研究内容も立地場所も定まっていない。国が目指す二〇二三(令和五)年春の一部供用まで一年半を切っている。国は拠点で行う具体的な取り組みや開所までのスケジュールを早急に示すべきだ。

 政府は拠点での研究により「福島の中長期の課題であり、ひいては世界の課題の解決に資する」とする。研究内容の例示として、廃炉で使用できるロボット技術の開発、脱炭素社会の構築に向けた研究開発、創薬医療の推進などを挙げ、今年度中に策定する基本構想で具体化する予定だ。

 首をかしげたくなるのは例示された研究内容に目新しさがあるのかという点だ。既に県内に整備された日本原子力研究開発機構(JAEA)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の施設や福島医大で進めているのではないか。内堀雅雄知事は先月末の政府要望で、新拠点で初めて取り組む目玉となるような研究内容を打ち出すよう政府にくぎを刺した。

 拠点整備に向け政府は昨年十二月、既存施設を可能な限り整理・統合する方針を決定している。浜通り地方の首長らからは「従来の研究の延長や既存施設の寄せ集めにとどまるのでは」との声も聞こえてくる。先月の有識者による復興推進委員会で、委員から「整備されているものを使うとの文言が散見される」と、点在する既存施設を拠点とすることへの懸念が示された。現在、投入されている予算や人員をまとめるだけでは「世界に冠たる新たな拠点」とは到底言えまい。

 政府は、首相と文部科学、厚生労働、農林水産、経済産業、環境の各大臣が拠点を所管し、専門の省庁が検討した上で研究内容を具体化する体制をつくった。岸田文雄首相は六日の臨時国会の所信表明演説で「政府一丸となって、長期・安定的な運営を実現する」と決意を示したが、「船頭多くして-」ということになってはならない。

 立地場所を巡っては、具体的な枠組みが不明だとして、県が選定を先送りした経緯がある。このままでは年内とされている県の提案が遅れる懸念がある。国は研究内容、研究者数や施設規模を早期に固め、県と市町村が立地調整に着手できるようにしなければならない。並行して施設の着工や竣工[しゅんこう]時期など供用開始までの工程、予算も順次示す必要がある。(円谷真路)