論説

【準備宿泊】避難解除の試金石に(1月3日)

2022/01/03 09:28

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 東京電力福島第一原発事故に伴い六町村に設定された特定復興再生拠点区域(復興拠点)のうち、今春以降に大熊、双葉、葛尾の三町村で順次避難指示が解除される見通しだ。事前の準備宿泊は解除に向けた試金石となる。国は実際に生活する上での課題を洗い出し、円滑な解除に努めなければならない。

 復興拠点は原発事故に伴う帰還困難区域の一部で、富岡、大熊、双葉、浪江、葛尾、飯舘の六町村に設けられた。住民の居住再開のための除染をはじめ、上下水道や道路などの社会基盤整備が進められている。このうち、大熊町と葛尾村は今春、双葉町は六月の避難指示解除を目指している。実現すれば、拠点外の復興に向けた大きな足掛かりとなるといえよう。

 準備宿泊は昨年十一月三十日に葛尾村、十二月三日に大熊町で始まった。今月二十日から双葉町でも開始予定で、国は四日から事前登録を受け付ける。唯一全町避難が続いている双葉町にとって、住民が町内で寝泊まりできるようになるのは初めてだ。十二月一日現在、実施地域に住民票があるのは千四百五十七世帯、三千六百二十七人で、町によると、既に家屋を解体した住民も多く、昨年夏時点で準備宿泊を希望しているのは約三十世帯だという。

 原発事故から間もなく丸十一年が経過する中、傷んでいる住宅は補修や設備の入れ替えが必要になる。買い物や通院、日常生活での足の確保、防犯など実際に住んでみないと分からない課題も多分にあるはずだ。国は住民の声に真摯[しんし]に耳を傾け、生活しやすい環境づくりを進めていく必要がある。

 既に準備宿泊が始まった復興拠点では課題も見えてきた。大熊町は十六世帯三十五人(十二月二十日現在)が申請しているが、住民からは「のり面の除染をしてほしい」「夜は、人がいないので怖い」などの声が寄せられている。要望に沿った丁寧な除染や夜間の不安解消に向けた街灯の整備などが求められる。

 放射線のリスクコミュニケーションも欠かせない。申請が一世帯二人(十二月二十日現在)にとどまっている葛尾村では、事前の住民説明会で放射線に対する不安が根強かったという。このため、復興拠点の住民を対象に専門家による放射線セミナーや車座的な住民との意見交換のような場を設ける予定だ。

 復興拠点ごとに事情は異なるが、こうした先行事例は参考になるはずだ。情報を共有し、よりよい形で解除に結び付けたい。(紺野 正人)