論説

【原発事故から11年】被災地の思い訴えよ(1月5日)

2022/01/05 09:12

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 内堀雅雄知事は四日の年頭会見で、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から三月で丸十一年になるのを前に「復興は途上にある」と強調した。放射性物質トリチウムを含む処理水の処分や帰還困難区域全域の避難指示解除などを困難な課題として挙げた。県は国や東電に対し、一連の課題解決を迫るとともに、これまで以上に被災地の復興への思いを訴えるべきだ。

 福島第一原発でたまり続ける処理水の処分問題で、政府は二〇二一(令和三)年四月、海洋放出する基本方針を決めた。十二月には風評抑制策や事業者支援策を盛り込んだ行動計画を決定したものの、県内の漁業者からは「反対を訴えているのに淡々と物事が進んでいく」と不満の声が上がり、風評被害の上乗せが避けられないとの懸念が広がっている。トリチウムへの国民的な理解も十分に得られているとは言えない状況だ。

 政府と東電は二〇二三年春の海洋放出開始に向け準備を進めている。内堀知事は「行動計画に基づいた正確な情報発信を国に求めていく」と述べたが、もう一歩踏み込んで県民をはじめ国民的理解を得られなければ海洋放出は認められないという立場を打ち出す必要があるのではないか。

 全町避難が続く双葉町では二十日から住民帰還に向けた準備宿泊が始まり、避難区域が設定された十二市町村全てで生活再建の動きが本格化する。ただ、帰還困難区域のうち特定復興再生拠点区域(復興拠点)から外れた地域の避難指示解除は見通せない部分がある。政府は帰還を希望する場合には除染などを進める方針だが、戻る人がいない区域はこのまま放置される恐れがある。県は、全ての避難指示解除を望む地元の意向を重く受け止め、国に対し実現への手法やスケジュールの明示を求めるべきだろう。

 避難指示が解除されても住民帰還が進まない市町村もある。今後の復興を考えた場合、浜通り地方に整備される国際教育研究拠点を世界の課題解決に資する施設にする必要がある。県は研究内容を検討している文部科学、厚生労働、農林水産、経済産業、環境各省の議論に積極的に関わり、産業集積や交流人口拡大につなげなければなるまい。

 県は昨年三月から新スローガンに「ひとつ、ひとつ、実現する ふくしま」を掲げた。震災と原発事故から十一年近くを経ても山積する課題に優先順位を付け、着実に解決を図っていくのは大切だ。同時に、将来を見据えて古里再生の道筋を示すのが行政の責務だろう。(円谷 真路)