義務教育の小・中学校と認定こども園を一体化させた教育施設「学び舎[や] ゆめの森」が大熊町に誕生する。東日本大震災と東京電力福島第一原発事故の課題解決に立ち向かう創造力に富んだ人材を被災地で育てようと、最先端の教育実践を図る。共感が広がり、学びの全国モデルとなるよう期待したい。
大熊町は新年度、会津若松市に避難している熊町小、大野小、大熊中の三校を統合して義務教育学校を設ける。二〇二三(令和五)年度には町内大川原地区に移転し、認定こども園を併設して、ゼロ歳児から中学生までが同じ環境で学ぶ体制を整える。
原発事故発生後、会津若松市の三校には合わせて約七百人が通ったが、大熊町民の避難先が各地に散らばるにつれて減少が続いた。ゆめの森への通学見込みは今のところ児童・生徒合わせて八人にとどまり、こども園の入園希望者はまだ、いない。
だが、大熊町は少人数を個別学習の好機と捉えた。小中学校の枠を取り払って九年制とし、学年にとらわれない授業を通じて個性や特長に応じた指導を追求する。教科ごとに教師が替わる教科担任制を採用し、時間割は児童・生徒と教師が話し合って決める。既に昨年四月から現在の三校で試行的に導入しており、浸透しつつあるという。
大熊町は教育理念に「温故創新」を掲げ、STEAM(科学、技術、工学、芸術、数学を意味する英語の頭文字)教育を推進している。ICT(情報通信技術)教育、読書活動、英語教育、芸術などを重視して人間としての総合力を養うのが狙いだ。「課題解決には創造力が何より大事。最先端の教育実践は教師にとっても学びとなる」と木村政文町教育長は意義を話す。
ゆめの森の新校舎は先月着工した。建物の中央に図書ひろばを設け、教室の壁は可動式で、広さを調整できる。体育館、音楽室などは校外から入りやすい設計とし、生涯学習施設の役割も果たす。
最先端の教育を実践しても、子どもと保護者の理解を得られなければ入学者確保は難しい。大熊町は新年度以降、入学希望の意向調査を実施する他、インターネットを使って授業を公開するなどして魅力発信に努める方針だ。
入学者を大熊町に迎え入れるには、住宅や保護者の働く場の確保などが課題となる。町の小・中学校への通学者が激減している中、ゆめの森開設は町の存続を懸けた挑戦と言えよう。少子化社会をも先取りした教育実践の成果を見守りたい。(鞍田炎)