論説

【震災11年 県の廃炉参入支援】産業界活性化の契機に(3月2日)

2022/03/02 09:03

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 県は新年度、東京電力福島第一、第二両原発の廃炉事業に参入を目指す県内企業への支援を強化する。東電からの発注見通しを企業側にきめ細かく伝え、契約に結び付ける態勢を整えるとともに、製造業者への技術指導に乗り出す。県内はもとより、国内の廃炉を担う事業体を数多く生み出し、本県の産業界全体の活性化につなげるべきだ。

 県は新年度一般会計当初予算案に「廃炉関連産業集積基盤構築事業費」として、前年度の二倍超に当たる一億二千万円を計上した。これまで続けてきた県内企業と東電の元請け企業とのマッチング事業を継続するほか、東電が予定している業務の詳細、発注時期、工期・納期を調べ、県内企業に紹介する。

 東電は「廃炉中長期実行プラン」を公表しているが、工事の詳しい内容や設計・施工の開始時期、完了までの期間、必要となる設備・機材の製造を外注するタイミングなどが明示されていないケースが目立つ。受注を目指す側から「現状のままでは、新たな人員の採用や設備投資に踏み切れない」との声が上がっていた。県は東電や元請けと連携を図り、情報を広く周知してもらいたい。参入希望が増え、企業にとって事業の幅を広げる契機となる。

 製造業者への技術指導は、東電が廃炉関連製品工場を新設し、福島第一、第二両原発の使用済み燃料を収めるキャスク(保管容器)などの生産を開始することが背景にある。一部の部材作製や加工を外注する方針が示されているのを踏まえ、県ハイテクプラザの職員が機械、金属、化学関連の製造現場を訪れ、高品質のものづくりを実現する方策をアドバイスする。工場の設置時期は「二〇二〇年代半ば」とされており、受注を望む製造業者の技術力の引き上げは急務といえる。

 資源エネルギー庁は補助制度を設け、廃炉関連を含めた原子力産業の製品開発や人材育成を後押ししている。県、国それぞれの事業をうまく連動させ、国内で進められる二十四基の廃炉を支える力量と信頼性を備えた事業者を、他県に先駆けて育成するよう期待したい。

 本紙で連載中の「新型コロナ 経済リアルタイム」では、日本の産業界はかつてない変革期を迎え、事業再構築が避けて通れない状況に直面していると、複数の有識者から指摘があった。廃炉は今後数十年にわたり、規模の大きな投資が続くプロジェクトであり、業態転換や第二創業を目指す中小企業の受け皿となるだろう。(菅野 龍太)