東日本大震災・原発事故

浜の「酒文化」つなぐ 人の流れ生み出す場に 浪江にブルワリー新設へ【あすを見つめて】

2022/03/09 09:56

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新たなブルワリーの建設に向けて決意を新たにする佐藤さん
新たなブルワリーの建設に向けて決意を新たにする佐藤さん

 南相馬市小高区で醸造所「haccoba(ハッコウバ)」を営む佐藤太亮(たいすけ)さん(29)は、隣接している浪江町にブルワリー(醸造施設)を新設する計画を進めている。「市町村をまたいで新たな醸造拠点を設けることで、浜通りの酒文化につながりを持たせたい」と願う。

 埼玉県出身。慶大四年の時、石川県のまちづくり会社でのインターンシップに参加し、醸造家と交流したのを機に酒造りへの関心が高まった。それでも、酒蔵は代々受け継がれるものというイメージがあり、自らの進路として選ぶまでには至らなかった。

 大学卒業後、インターネット大手を経て、採用支援などを手掛ける企業で働いた。この時、日本酒に関する事業に取り組む人と交流したのをきっかけに、酒造りへの思いが再び湧き起こった。「日本の発酵文化を広めるために国内に拠点を構えたい」。身を転じて新潟県の酒蔵で一年間修業を積んだ。

 二〇一九年、南相馬市小高区で起業家の支援などを手掛ける「小高ワーカーズベース」の協力を受け、起業型地域おこし協力隊に就任。「日本酒」をテーマにした活動を始めた。東京電力福島第一原発事故の影響で避難を余儀なくされ、再び前に向かって歩み始めた小高区を選んだ。佐藤さんは三月十一日生まれで「地縁がなくても、震災と同じ日付に生まれたことに使命を感じた」という。

 haccobaを立ち上げたのは二〇二〇(令和二)年二月で、翌年から酒造りを始めた。ホップを使用したかんきつ系の香りが漂う酒などを開発し、全国からの注文も相次ぐなど、運営は軌道に乗り始めた。

 今後は浪江町で新たな事業に乗り出す。建設予定のブルワリーでは、地域の人々が生産したものを酒にし、ともに販売する。企画、製造、販売の過程を人々と共有する場所にする予定だ。「自分が醸造したお酒を人々が買いに来ることで、人の流れが生まれる。それを実現できる場所にしたい」と新しい醸造所が導く夢を思い描いている。