論説

【震災11年 相双地方の観光】隠れた魅力を育てたい(3月12日)

2022/03/12 09:05

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 相双地方の観光が輝きを増している。東日本大震災と東京電力福島第一原発事故の発生以降、さまざまな施設や見どころが生まれ、復興に向けて情熱的に取り組む人たちの姿が共感を呼んでいる。隠れた地域資源を掘り起こし、相馬野馬追や大堀相馬焼など名高い伝統文化と共に、多彩な魅力を発信しながら滞在型の観光地に育てたい。

 東日本大震災・原子力災害伝承館や道の駅なみえなど震災・復興関連施設や交流施設には大勢の人が訪れ、被災地の実情を伝える発信拠点となっている。県相双地方振興局は関係・交流人口の一層の拡大を図ろうと今年度、体験型のモニターツアーを初めて企画し、家族向けと女性向けの二コースで計四回実施した。

 参加者は、大規模ハウスで栽培したイチゴの試食、高原牧場でのヤギとのふれあい、キャンドル作り、ワイナリー見学などを体験し、関係者から復興に懸ける思いを聞いた。伝承館やとみおかアーカイブミュージアムなどを見学し、乗馬、作陶、カニ釣り、イワナ釣りなどを楽しんだ。

 「砂浜での乗馬は一生に一度の思い出」「海のイメージが強かったが、山の自然も豊かで、暮らすにはとても良いところ」「星も月も夜の海も楽しめ満足」など感激の声が上がった。相双地方を初めて訪れた人も多く、「身近に感じた。また訪れたい」「特産品や魅力ある場所が多い」「県外の友人にも紹介したい」「若い人たちが復興に協力して、自ら取り組んでいるのは素晴らしい」など驚きの声も目に付いた。

 相双地方は災害と復興を学ぶ教育旅行や、原発の廃炉作業で注目されている。一方で、風土に根差した伝統文化や食、野外活動に適した自然などに恵まれ、観光地としての可能性を秘めている。ところが、十分に知られているとは言いがたい。

 見どころや多様な取り組みは広大な地域に点在しており、つながりを欠いているのが現実だ。地域資源に磨きを掛けながら結び付け、連泊して楽しめる観光ルートを設定したい。実現させるためには市町村の枠を超えた広域的な連携と体制整備、交通手段の確保、関係者のサービスやおもてなしの向上などが不可欠で、国や県の積極的な支援が求められる。

 相双地方のファンを獲得するためにも、観光は有力な手段となり得る。地域を好きになれば、移住・定住しようとする人も増えてこよう。観光振興を目指す努力は、地域の魅力向上につながっていくに違いない。(鞍田炎)