東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から丸十一年が経過したが、被災地では今も空き巣などの侵入盗被害が後を絶たない。県警や防犯ボランティアが警戒に当たっているが、人材確保が課題となっている。住民の帰還を促すためには、安全で安心な生活環境づくりが欠かせない。県警や市町村、住民は連携を強化し、限られた人材を生かして効果的な防犯活動に努めるべきだ。
原発事故で避難指示が出た市町村のうち双葉郡八町村、南相馬市小高区、飯舘村の総刑法犯認知件数は二〇一一(平成二十三)年の千百三十三件をピークに減少しているものの、昨年も百二十一件に上った。窃盗犯が約八割を占め、引き続き、空き家を狙う手口が目立つという。
富岡町の復興拠点の立ち入り規制緩和に合わせ、県警は一月に双葉署夜の森駐在所の使用を再開し、他県警から派遣されている特別出向者や双葉署員らが警戒活動の拠点としている。六月に見込まれる双葉町の復興拠点の避難指示解除に向けても、双葉署双葉駐在所を再開し、パトロール拠点として使用する。両駐在所以外にも、帰還困難区域内にあって閉鎖中の四駐在所の再開について、住民の要望などを踏まえて柔軟に対応してほしい。
被災地の警戒活動では、空き家の巡回で荒らされた形跡などを確認した際は所有者に連絡し、異状がない場合も立ち寄りを伝えるカードを玄関先などに残している。こうした取り組みは、本来の自宅を離れて暮らす避難者の安心感を高めることにつながる。
懸念されるのが警戒に当たる人材の確保だ。震災と原発事故以降、本県には全国の都道府県警からの特別出向者が派遣され、被災地のパトロール活動などに従事している。特別出向者は二〇一二年度の三百五十人をピークに年々減少し、二〇二一(令和三)年度は四十五人だった。今後も減ると見込まれ、県警は住民の帰還状況などを見極めた上で一線署への適正な人員配置が求められるだろう。
双葉、南相馬両署はボランティアの防犯指導隊員を委嘱している。このうち避難区域が設定された地域で活動する隊員は二〇一一年の計百五十七人から、昨年十二月時点で計六十七人に減った。人口流出や高齢化で減少に歯止めがかかっていない。県警や市町村には、避難先から通う隊員の交通費を補助するなどの支援策を検討してもらいたい。進出企業などにも働き掛けを強め、若い人材の確保を図る必要がある。(斎藤靖)