東日本大震災・原発事故

研究成果を後世に 防げる「死」なくしたい 被災地で医師活動と関連死研究【あすを見つめて】

2022/03/22 09:40

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「次の災害に備えて研究を後世に伝えていきたい」と話す沢野医師
「次の災害に備えて研究を後世に伝えていきたい」と話す沢野医師

 常磐病院(いわき市)の外科医沢野豊明さん(32)=横浜市出身=は東日本大震災と東京電力福島第一原発事故を機に南相馬市の病院で医師のキャリアをスタートさせた。臨床医として被災地域の健康問題に向き合いながら、得られた知見に基づき災害関連死の研究も続けてきた。「次の災害に備え、研究成果を後世に伝えるのが自分の役目」と話す。 震災時は千葉大医学部の三年生。「被災地を支援したい」という思いを漠然と抱きながらも、学業に追われて時が過ぎた。大学六年の春、卒業後の初期研修先を探す中、被災地の病院に足を運ぼうと思い立った「求められれば研修の二年間を過ごしてもいいかな」という程度の気持ちだったという。

 初期研修時代に被災地の現実を目の当たりにし、考えが深まった。南相馬市立総合病院は福島第一原発の二十三キロ北に位置し、当時、少し南下すれば避難指示区域への立ち入りを規制するゲートをいたる所で見掛けた。震災と原発事故の影響が色濃く残る最前線にもかかわらず、医師不足が深刻化していた。「この地で貢献したい」。二〇一四(平成二十六)年四月から研修医として市立総合病院で本格的に働き始めた。

 本職は消化器外科医ではあるが、他の医師らと協力しながら、災害関連死に関する研究など地域のために有益な研究を重ねてきた。二〇二一(令和三)年には除染作業員で生活習慣病にかかっている人の割合が一般の人より高いことを示す論文も発表した。

 現在は原発事故による緊急避難の際に多くの死者が出た双葉病院(大熊町)などの事例を調べながら、大規模災害に直面した医療機関での災害関連死を減らす方法を模索している。「災害関連死は『防ぎうる災害死』だと思う」。未曽有の複合災害に見舞われた地で続ける研究は、きっと未来のために役立つと信じている。