
福島県富岡町夜の森地区で生まれ育った町職員の秋元菜々美さん(24)は、間もなく満開を迎える桜並木の風景を心待ちにする。休日はボランティアガイドとして、町を訪れる人々に町の歴史や復興の現状を伝えている。「古里の魅力を発信し続けたい」。一年の中で最も好きな季節を迎え、決意を新たにする。
「家屋や商店は解体され、町の姿は変わってしまった。でも、夜の森の風景は、以前と変わらない昔のまま」。7日、花を付け始めた夜の森の木々を見詰め、子どもの頃を思い出した。
毎年開かれてきた桜まつりで、子どもみこしに参加してもらった500円を手に、屋台で買い物をした。夜の森公園の木の下で、大人から子どもまで思い思いに楽しんでいた。春は桜に囲まれて過ごすのが当たり前だった。その美しさに今、改めて誇りを抱く。
震災が起きた時は、富岡二中の1年生。家族4人と茨城県や千葉県を経て、いわき市に避難した。家族の中で震災と原発事故を話題にせず、新聞やテレビの報道も見聞きしなかった。心の中で避けていた。「自分にとって富岡町は楽しい思い出しかない。周りから、かわいそうと思われるのが嫌だった」と振り返る。
高校1年の冬、初めて一時帰宅した。防護服を着て、自宅の玄関で立ち尽くした。動物に荒らされた室内を見て、初めて震災と向き合った気がした。演劇部に入って震災や原発事故について語る機会があり、少しずつ自分の心と向き合い、古里への思いを強めた。
郡山市の専門学校を卒業し、2018(平成30)年に富岡町職員になった。町の復興に関わる仕事に携わり、充実した日々を過ごしてきた。週末に町内ツアーのガイドを依頼されるようになった。町を訪れる人と夜の森地区などを巡り、交流を深めた。活動を通じ、桜並木や商店街の思い出など、震災前まであった何気ない日常有り難さを身にしみて感じる。生まれ育ったこの土地にしっかり根を張り、ガイドを続けていく考えだ。
震災と原発事故から11年を経て、新たな決心をした。自分にとって古里とは何か-。今月から大学に入学し、社会と人との関わりについて学び出した。これからも富岡に向き合い、伝えていく。夜の森の桜に誓う。
■9、10日に桜まつり
福島県富岡町の「桜まつり」は9、10の両日、町内の旧富岡二中周辺で開かれる。東京電力福島第一原発事故に伴う特定復興再生拠点区域(復興拠点)の立ち入り規制が1月に緩和され、これまで観桜できなかった町道夜の森桜通り線沿いの桜並木が自由に歩けるようになる。12年ぶりに全長2・2キロの桜のトンネルを楽しめる。
富岡町ゆかりのアーティスト、人気お笑いコンビら多彩な出演者がまつりを盛り上げる。桜並木の下で、さまざまなパフォーマンスが繰り広げられる。
2日間とも午前9時から午後3時まで。駐車場は旧リフレ富岡駐車場、旧リフレ富岡跡地、富岡町総合グラウンド。
■コットンボールをプレゼント
福島民報社など東日本大震災の被災3県の新聞社が取り組む「NEXT TOHOKU ACTION」は9、10の両日、富岡町の桜まつり会場で、桜の香りがする「コットンボール」を来場者にプレゼントする。
「NEXT TOHOKU ACTION」に特別協賛している花王グループカスタマーマーケティングが、富岡町内の桜から香料を作り、コットンボールに香りを付けた。
旧富岡二中の校庭にブースを設け、各日午前9時から先着500人に贈呈する。1袋に3個入っている。