東日本大震災・原発事故

【原発賠償訴訟 統一判断の衝撃】(下)復興の責任は果たせ 国の関与、先行きに懸念

2022/06/20 05:45

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クマ・プレの前の植物に水をやる吉田さん夫妻。町の復興や住民の帰還には国の関与が必要と感じている
クマ・プレの前の植物に水をやる吉田さん夫妻。町の復興や住民の帰還には国の関与が必要と感じている

 東京電力福島第一原発事故の国の責任を否定した最高裁判決を受け、被災地の住民からは「復興への国の責任の重さは変わらない」との声が上がる。原発事故から11年余を経て、帰還困難区域の特定復興再生拠点区域(復興拠点)で避難指示解除の動きがようやく出始めるなど、復興は道半ばだ。地域の再生には政府の関与が欠かせない。帰還を望む被災者は復興に最後まで責任を持つよう注文する。


 「判決の報道を見た人の頭には『国の責任はありませんでした』という結論しか残らないのではないか」。大熊町の地域交流拠点「KUMA・PRE(クマ・プレ)」で働く吉田幸恵さん(46)と夫の喜一さん(57)は、判決を伝えるニュースを複雑な思いで眺めた。

 幸恵さんの実家は復興拠点外(白地地区)の野上地区にある。約3年前から楢葉町に暮らしているが、避難指示が解除されれば、いわき市にいる両親を連れて戻るつもりだ。

 集団訴訟の原告ではないが、事故後の避難生活ではつらい体験をした。会津若松市にいた頃にひき逃げ事故に遭い、体の一部には後遺症が残る。ふさぎ込んだ時期もあり、自身の経験を語れるようになったのは最近だ。

 町の変化を見届けようと、クマ・プレの運営を担う会社に就職。今春から週に2日、出勤し、訪問者に町の現状やかつての姿を伝えている。地元に戻ったら、自宅を帰還者や移住者の交流の場にする構想を描く。だが、11年も離れていた古里での生活を立て直すには除染や家屋解体に加え、幅広い国の取り組みが必要だ。国策として進められてきた原発で起きた事故の責任を東電だけに背負わせるのは「無理がある」と感じる。「事故前の責任はうやむやでも、復興の責任は果たしてほしい」とくぎを刺す。

 被災地の住民が抱く不安に対し、復興庁原子力災害復興班の担当者は「最高裁判決にかかわらず、引き続き被災者に寄り添いながら関係省庁と連携し、福島の復興・再生に取り組む。国が責任を持って前面に立つ姿勢に変わりはない」と話す。原発事故を巡る「法的責任」が否定されても原子力政策を推進してきた「社会的責任」は引き続き担うという国の立場を説明する。

 ただ、避難区域をはじめ、福島県の復興にはこの先も長い時間を要するのが実情だ。「復興の過程で生じる問題でも、責任の所在があいまいになるのではないか」。いわき市の災害公営住宅で自治会長を務める双葉町の国分信一さん(72)は先行きへの懸念が拭えない。

 原発事故の記憶の風化や防災意識の薄れが進む一方、東電福島第一原発の処理水問題や防災対策など国が先頭に立つべき課題は山積している。いずれは双葉町に戻るつもりなだけに、判決に疑問を感じる。「政府は町を復興させ、事故の教訓を後世に伝える役割を果たすべきだ」と注文する。