論説

【小高避難解除6年】居住の受け皿充実を(7月13日)

2022/07/13 09:05

  • Facebookで共有
  • Twitterで共有

 東京電力福島第一原発事故に伴う南相馬市小高区の避難指示が解除されて十二日で丸六年になった。住民の数は増加傾向を示している。復興をさらに前に進めるには、古里への帰還を望む住民をはじめ、若い世代や新たな人材を呼び込む受け皿づくりに一段と力を注ぐ必要がある。

 南相馬市によると、原発事故発生前の二〇一一(平成二十三)年二月の住民基本台帳に基づく小高区の人口は、一万二千八百三十四人だった。避難指示解除後の二〇一七年三月末の居住人口は千四百八十八人、翌年三月末は二千六百四十人となった。その後も増え、今年五月末時点で三千八百三十四人に達した。

 昨年度、市の相談窓口などを利用して小高区に移住した二十八人のうち、四十代以下は約七割の二十人に上る。今後も若い世代の移住、定住が拡大するよう望む。

 定住の大きな課題の一つに働く場の確保が挙げられる。小高産業技術高は昨年、文部科学省のマイスター・ハイスクールの指定を東北で唯一受け、地元の企業と連携した職業人の育成を実践している。今年度は職場に出向き、それぞれの技術に触れる授業を行っている。

 原町区を中心に市内で多くの製造業が営まれている。福島イノベーション・コースト構想によって最先端の技術開発を手がける企業の進出も相次ぐ。マイスター・ハイスクールがこういった企業との関係を深め、地元の若者が近くにある仕事に関心を高めて就職する流れができれば、定住につながる。国の指定は来年度で終了するが、県や市、企業が引き続き支援し、地元の産業の担い手を切れ目なく育てていくべきだろう。

 基幹産業の農業振興も復興の要だ。小高区は移住希望者を支援する「地域のお世話人」制度を設けた。実際に帰還や移住した住民が、地域の実情や暮らしぶりを伝えている。今年度は新たに農業者十人が加わった。区内では農地の基盤整備により、大規模な農業経営を可能にする環境づくりが進んでいる。ソフト、ハード両面で充実した小高区ならではの農業を、移住の呼び水にしてほしい。

 帰還者は避難先での生活が定着した子育て世代よりも、その親の世代が多い。高齢者が安心して暮らすには、医療や福祉の向上が欠かせない。移住者との接点が少なく、どんな人がいるのか分からないとの声も聞かれる。帰還者と移住者が交流できる場を増やし、双方が住みやすいと思えるコミュニティーづくりも求められる。(平田団)