「大野駅見続け50年」(7月19日)

2022/07/19 09:05

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 クリーム色に赤い線の入った車両が田園地帯を疾走する。一九七二(昭和四十七)年、常磐線の特急「ひたち」の運行区間が大熊町にまで延び、大野駅に485系電車が初めて乗り入れて五十年になる。早朝の午前六時にもかかわらず、大勢の町民が第一列車を出迎えた▼大野駅西側の酒店に生まれた男性は、八歳の頃の記憶を鮮明に覚えている。駅東側の高台にある聖徳太子神社から、眼下に広がる風景を見つめた。自宅前を電車が通過する。この線路はどこまでつながっているのだろう|。世界が広がり、わくわくした。幼少の大切な思い出だ▼東京電力福島第一原発事故に伴う帰還困難区域のうち、大熊町の復興拠点の避難指示が先月末に解除された。駅周辺の下野上地区は十一年前まで小学校、病院、商店街があり、町の中心部だった。人口の半数に当たる約六千人が暮らし、活気にあふれていた▼男性は復興拠点内に新しい自宅を構え、しばらくしたら戻るつもりだ。列車に心を躍らせたあの日から半世紀、今は自他共に認める熱烈な鉄道ファン。古里が前進する速度は特急とはいくまい。せめて、満員の笑顔を乗せて再び走る姿を早く見られるといい。