論説

【復興拠点外対応】被災地の思いに応えよ(7月19日)

2022/07/19 09:05

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 富岡町は、帰還困難区域の特定復興再生拠点区域(復興拠点)外の土地利用方針を先月、町民に示した。方針は、復興拠点外整備の全体像を明らかにしていない国に対して、地元が望む避難指示解除後の姿を先行して提示し、実現を求めた形だ。国は古里の将来を憂える被災地の思いと受け止めて、避難指示解除に向けた具体的な工程を明示すべきだ。

 町は来年春の避難指示解除を目指す復興拠点に隣接した一区域約四十九ヘクタールを産業団地として整備するとしている。残る二区域も順次、企業誘致や復興の状況を考慮しながら、農地や居住区域などといった土地利用方針を示す計画だ。その上で機会を捉え、国に復興拠点外の避難指示解除に向けた手続きやスケジュールを明示するよう要請する。

 町内の帰還困難区域は約八百五十ヘクタールに上り、このうち約四百六十ヘクタールは復興拠点から外れている。国は昨年八月、帰還希望者については二〇二〇年代に古里での生活を再開できるよう除染や社会基盤整備を進めるとした。それ以外の地域は「地元と協議を重ね、将来的には全ての避難指示を解除する」とするだけで道筋は見えていない。

 町が復興拠点外の一部地域の土地利用方針を打ち出したのは、町政懇談会などで町民から「帰還困難区域のまま次世代に引き継ぎたくない」との声が寄せられているためだ。町は一体的に利用できる六号国道東側の約百五十ヘクタールを三区域に分けて、住民の意向を確認したところ、町の土地利用方針に積極的、あるいは内容によっては「協力したい」との回答が計95%余りを占めた。「新産業の創出」を求める声が最も多かった。

 地元から復興拠点外の整備方針が出された以上、最大限応えるのは「復興・再生に責任を持って取り組む」としてきた国の責務だ。来月末が締め切りの来年度予算の概算要求に産業団地用地の避難指示解除に向けた調査費を計上するなど、前向きに取り組むよう求めたい。被災地の再生に向け、町と一体となって企業誘致を進めるとともに、町が土地利用方針を定める三区域外の将来像も早期に打ち出す必要があるだろう。

 与党の東日本大震災復興加速化本部は例年、夏ごろに提言をまとめ、多くが国の施策に反映されてきた。被災地には、参院選や国際情勢などの影響で「加速化本部の議論が停滞しているのではないか」との懸念も出ている。今年度の提言には復興拠点外への対応にもしっかりと踏み込んでもらいたい。(円谷真路)