福島県発の廃炉産業(7月24日)

2022/07/24 09:20

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 東京電力は今年の年頭で福島第一、第二原発の廃炉を通じて福島県発の廃炉産業の確立を目指す考えを示した。一方、原子力損害賠償・廃炉等支援機構の「廃炉のための技術戦略プラン2021」によると、地元企業を対象に行ったヒアリングの結果では、地元企業は必ずしも元請けとなることを希望しておらず、まずは下請けとして参入して技術や経験を得ることを望んでいるとのことだった。地元企業の考えは、もっともなように思える。原子力の仕事は、放射線下なので、少しのトラブルでも現場での装置の手直しは大変だ。石橋を叩[たた]いて渡るような準備と装置の操作習熟が必要で、モックアップ(模擬)装置を使った試験が行われる。

 福島第一の1、2号機の排気筒工事を例に取ると、数メートルの高さの円筒で排気筒を模擬して事前準備が行われた。作業は遠隔操作が基本だが、工事の初期段階で排気筒をかなり切り込んだ時に電源が切れ、その状態からは切断装置を外すことができず作業員がゴンドラで登って外さざるをえなかった。

 また、排気筒の溶接部の厚みの差、排気筒は真円でなく多少の歪[ゆが]みがあるなどに起因する初期トラブルが起こったが、対策を行った後は工事は円滑に進んだ。初期トラブルを減らすのには、5、6号機の汚染していない実機の排気筒の活用や、現場知識の豊富な技術者の参加などの改善策が必要ではないかと思った。トラブルは、現場経験やモックアップ試験で減らすことができる。また、地元企業が元請けとして行った今回の経験は貴重だ。見直しを行い、その経験を今後に生かしてもらいたい。

 スイスのミューレベルク沸騰水型炉で原子炉を囲うシュラウドにひび割れが見つかり、世界的に問題となった。一九九七年から福島第一原発の3号機では、世界で初めて炉心シュラウドの交換が行われた。重電二社は各[おの]々[おの]高さ約二十七メートルの実寸大の原子炉のモックアップを作り、機器の交換、補修に必要な様々な技術を開発した。その一部の基礎技術は福島第一の廃炉工事にも活用された。世界初の工事だったが、実寸大のモックアップで入念な試験が行われ、トラブルは少なかった。

 重電メーカーの人材も課題があると思っている。原子力発電所の建設がなくなり、それに伴い経験豊富な人材が減りつつある。現在大間原発は建設が中断、島根3号機は新規規制で待機中で製造部門は約十年止まっている。また柏崎刈羽6、7号機は運開後四半世紀、泊3号機も運開から十二年経過し、物作りを経験したことのないメーカーの人材が一世代、二世代と増えている。若い技術者は廃炉工事で経験を積んでいるのが実情だ。楢葉遠隔技術開発センターにモックアップ装置を充実し、地元企業と物作りの経験豊富な元請け企業の技術者との技術継承の場として活用できないか。(角山茂章、会津大学元学長)