東日本大震災・原発事故

【理解と了解 処理水海洋放出~茨城編(下)】よみがえる悪夢 JCO臨界事故 風評痛感

2022/09/04 09:39

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JCO臨界事故でも被害を受けたと語る須田さん。福島県のみに負担を強いず、全国各地で放出するべきだと訴える=ひたちなか市の「那珂湊おさかな市塲」
JCO臨界事故でも被害を受けたと語る須田さん。福島県のみに負担を強いず、全国各地で放出するべきだと訴える=ひたちなか市の「那珂湊おさかな市塲」

 茨城県は1999(平成11)年9月のJCO臨界事故により深刻な風評被害を受けた。臨界事故と東京電力福島第一原発事故の両方で影響を受けた事業者は、処理水海洋放出による「3度目の悪夢」に強い懸念を抱く。茨城県産の魚介類を看板商品にしている飲食業者は処理水に関する国民的な理解醸成と風評抑止に向け「福島県だけに負担を強いず、全国各地で放出してはどうか」と提案する。


 JCO臨界事故は東海村の核燃料加工会社ジェー・シー・オー東海事業所で発生した。作業員3人が大量被ばくし、うち2人が死亡した。周辺地域の600人超の住民も被ばくした。30万人以上の住民が避難や屋内退避を余儀なくされた。茨城県の報告書によると、影響は農畜水産業や商工業、観光業など幅広い産業に及び、被害額は合わせて150億円超に上った。

 茨城県ひたちなか市の那珂湊漁港近くで海鮮系飲食店を営む須田千鶴子さん(57)は臨界事故による風評被害を経験した一人だ。店舗は臨界事故の発生現場から南に約15キロの場所にある。当時は経営者ではなかったため被害額などは不明だが、客足は事故前の半分以下に減ったのを覚えている。「元通りになるまで3年はかかった」と振り返る。

 その12年後、今度は原発事故に見舞われた。「行っても大丈夫か」「魚介類は安全か」。毎日のように観光客から問い合わせがあり、その度に、放射性物質検査で安全性が確認されていると粘り強く伝えた。それでも売り上げは事故前の2~3割程度まで落ち込んだ。風評の厄介さを再び痛感した。

 須田さんは2度の経験を踏まえ、処理水海洋放出による風評発生をどうにかして防げないかと思案する。国民的な理解醸成が鍵だとし、「科学的に安全ならば全国各地で放出すべきだ。国民が自分事として処理水問題を考えるきっかけとなる」と訴える。福島県沿岸部に親戚がいるといい、「福島だけに負担を強いるのは納得できない」と思いを寄せる。


 処理水海洋放出による影響に懸念を抱くのは漁業関係者に限らない。ひたちなか市で干し芋などの加工業を営む鬼沢宏幸さん(60)も臨界事故と原発事故の両方で被害に遭った事業者として、政府に慎重な対応を求める。放出により茨城県のイメージが悪化しかねないとし、「できれば流さない方がいい」と語る。

 北茨城市で「常磐もの」のアンコウを売りにした旅館を営む武子能久さん(46)は処理水処分の必要性を感じており、「(放出は)致し方ない」と話す。一方で「確実に影響が出る」とし、風評対策に加えて幅広い事業者への支援を求めた。