

東京電力福島第一原発事故による避難指示が解除され、5日に業務を開始した双葉町役場新庁舎では、職員が引き締まった表情で業務に臨み、町再生への思いを強くした。本庁舎機能の「帰還」に合わせ、約11年半ぶりに町内での生活を始めた職員もいる。復興のつち音が響く町の現状を受け止めながら、まちづくりに取り組む気持ちを新たにした。
■幼少の記憶、胸に 坂本遼耶さん22 埼玉出身、4月入庁
「ようやく復興が本格化する。町の一員としてしっかり携わりたい」。今年4月から町役場に勤務している坂本遼耶さん(22)は広々とした庁舎を見渡し意気込みを口にした。
坂本さんは埼玉県出身。幼少期から高校卒業まで同県加須市で過ごした。市内の旧騎西高では、原発事故に伴い古里を離れた双葉町民が避難生活を送った。坂本さんは小学生のころ旧騎西高を訪れ、避難生活を送る町民と交流した。子ども心に、震災と原発事故の被害の大きさを感じた。
大学入学後、地域振興を学び、災害復興に興味を持つようになった。「自分も被災地の復興に携わりたい」。真っ先に頭に浮かんだのが身近にあった双葉町だった。昨年11月に町を初めて訪問。荒れ果てた家屋や立ち入りを規制するゲート、全町避難が続き人影のない町の現状を目にし、衝撃を受けた。「知っていたつもりでいたが、実際に見て心が痛んだ。改めてこの町の力になりたいと思った」と当時を振り返る。
坂本さんは町教委生涯学習課で専門員として働き、10月に実施予定の町民交流イベント「ふたばスポーツフェスティバル」に向けた準備を進めている。「イベントを通して町民に今の町を知ってもらう。少しでも帰町する町民を増やしたい」。町に活気が戻ってくることを楽しみに、今後も町職員として尽力していくと誓う。
■現状発信が使命 勤続20年以上 橋本靖治さん 48
町職員として20年以上働いている橋本靖治さん(48)は「長い時間がかかったが、戻ってくることができた。ここからが復興のスタートだ」と気持ちを引き締めた。
橋本さんは、町民とともに川俣町や埼玉県、いわき市と避難生活を続け、町民に寄り添ってきた。町内での業務開始に合わせていわき市から引っ越し、4日から町内での生活を再開した。
避難指示が解除されたばかりの静けさが支配する夜の町に、長期避難の現実を痛感した。それでも自分の古里で生活を再開することができた喜びを心の底から感じたという。
橋本さんは大好きな古里を残していくため、町が経験してきたことを後世に伝え、つなげていくことが大事だと考えている。これまでも震災関連資料の収集や記録誌作成などに尽力してきた。最近は町を見学に訪れた学生らを案内し、町の現状を伝えている。
秘書広報課長として現在の町の姿を発信する重要性を若手職員らに説いている。「多くの人に発信する役目は先に町に戻ったわれわれ町職員にある」と意気込む。多くの町民や移住者が町で生活を始め、にぎやかな町が戻ることを願う。