論説

【原発の冠水工法】議論の過程が見たい(9月13日)

2022/09/13 08:59

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 原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)は、東京電力福島第1原発3号機の溶融核燃料(デブリ)取り出し法の候補として原子炉建屋全体を水で浸す冠水工法を新たに提案した。作業が先行する2号機は空気中で取り出す気中工法での準備が進む。今回の提案は唐突感が否めない。

 福島第1原発の廃炉に向けたNDFの2022年版技術戦略プラン要旨で示された。これまでも冠水工法は検討されてきたが、原子炉建屋全体を金属の構造物で囲み、建屋ごと水没させる工法は初めて盛り込まれた。耐久性を保てる船殻構造体と呼ばれる構造物を使うため、水による放射性物質の遮蔽[しゃへい]や粉じんの飛散抑制に効果があるという。

 一方で、この工法を廃炉作業に利用したことはなく、耐震性や巨大な構造物を建設するまでの期間やコストは不透明感が強い。大きな地震が発生した場合、漏水リスクはないのか。NDF役員も「実現までに解消すべき点は多い」と冷静に分析している。

 さらに心配なのは、新たな冠水工法を採用した場合、政府が海洋放出の基本方針を決定している処理水の量がどの程度になるかだ。建屋全体を水没させれば、相当量の汚染水が発生するのは容易に想像できる。現在、発生している汚染水よりも増えるのか、減るのか。増やさないためにどんな対策が考えられるのか。

 こうした疑問点に答えるためにも、これまでの検討過程を明らかにする必要があるのではないか。さらに言えば、残された課題を一つ一つ解決していく姿を丁寧に公開していくことが、新たな工法を採用する際の理解につながるはずだ。

 最近の政策などの策定過程は分かりにくいと感じる。岸田文雄首相は8月末、経済産業省に原発再稼働の加速と稼働期間の延長、次世代原発の新増設の検討を指示した。経産省は今月中に省内の審議会で具体化に向けた議論を本格化させ、年内の取りまとめを目指すという。

 エネルギー政策は、福島第1原発事故以降、原発の新増設や建て替えを想定していないとした基本方針が堅持されてきた。ウクライナ危機に端を発した電力逼迫[ひっぱく]の懸念や経済界、産業界からの要請など、さまざまな背景があるのだろうが、過程のはっきりしない方向転換に対して県民、国民は置き去りにされている感を強く抱く。

 冠水工法、エネルギー政策とも最終決定はまだという点は幸いというべきか。信頼につながる開かれた議論を期待したい。(安斎康史)