
東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から11年6カ月。福島県政は被災地の環境回復や復興だけでなく、さまざまな難題が複雑に絡み合う。任期満了に伴う10月13日告示、30日投票の知事選まで1カ月となった。立候補者はどんな打開策を訴えるのか。福島の「ひと」「くらし」「しごと」の現在地をひもとき、課題を掘り下げる。
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総務省が4月に発表した2021(令和3)年10月時点の都道府県別人口推計で、福島県の人口増減率は前年比マイナス1・16%だった。前年から減少した割合は秋田の1・52%、青森1・35%、山形1・23%、長崎1・18%に次いで下から5番目の43位に低迷した。急激に進む人口減少への対策が急務となっている。
原発事故による県民の県外流出が落ち着いたとは言え、県外への転出者が県内への転入者を上回る「社会減」は止まらない。首都圏への一極集中など社会全体の構造的な問題で、子育て支援策や企業誘致など歴代知事が対策を講じても歯止めはかかっていない。
総務省公表の2021年の人口移動報告によると、福島県から転出する人が転入を6116人上回り、社会動態は都道府県別で46位。最下位は広島県の7159人の転出超過だった。福島県の転出者5万5861人を年齢層別に見ると、20~29歳が2万1984人と4割を占め、就職や進学を機に若者が首都圏などに流出している。
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死亡数が出生数を上回る「自然減」の抑制も重要な課題だ。厚生労働省公表の2021年の人口動態統計によると、福島県は死亡数が出生数を上回り、1万4909人の自然減となっており、都道府県別で35位に位置する。県は自然減対策として出生率の向上を掲げる。女性1人が生涯に産む子どもの推定人数を示す合計特殊出生率を2040年に2・11に引き上げる目標だ。しかし、2021年度時点の合計特殊出生率は1・36(前年度比0・12ポイント減)で、目標達成の道は険しい。
合計特殊出生率の低迷には、さまざまな要因が絡む。2021年度の県内の婚姻数は6342件。前年度から333件減り、6年連続で減少傾向にある。2018(平成30)年12月時点の人口10万人当たりの産婦人科従事医師数は6・4人と少なく、都道府県別の順位は44位と低い。
猪苗代町で子育て支援活動に携わる五十嵐葉子さん(36)は「住んでいる地域に産婦人科がないなど、出産や子育てに二の足を踏む女性は少なくない」と訴える。県の2021年度県民意識調査で、「県内で子育てしたい」と回答した人の割合は65・7%だった。子どもを産み、育てやすい環境をさらに整え、県内での子育てを下支えする取り組みが求められている。
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福島県人口は1998年の約214万人をピークに減少が続き、今年4月1日現在の県推計人口は戦後初めて180万人を割り込んだ。県の将来的な人口目標を定めた県人口ビジョンは、2040年に150万人程度を維持する目標だ。原発事故による避難者の帰還状況などを加味した推計では、2040年に約143万人まで減るとの試算もある。
厳しい現状の中で、人口減少のカーブを緩やかにする策として県や専門家は福島県への移住促進が鍵を握るとみている。県は転入者が転出者を上回る「社会増」の実現に向け、移住・定住の取り組みを強化。首都圏でのセミナー開催、移住者の定着につなげるための「お試し移住村」などを展開している。2021年度の県内への移住世帯は1532世帯で、前年度の723世帯から約2倍に増えた。県総合計画に掲げる2022年度時点での目標である868世帯を大幅に上回った。
社会計画論が専門で、県総合計画審議会長の岩崎由美子福島大行政政策学類教授は「福島で働き、暮らしている魅力的な人たちの存在をさらに発信していく必要がある。何らかのかたちで福島に関わる『関係人口』を増やしていくことも県内への移住につながる」と指摘する。