県内を巡る教育旅行が回復の兆しを見せている。新型コロナウイルスの第8波が懸念されてはいるが、学校が来年の予定を立てる今の時期は教育旅行を開拓、確保する上で重要だ。子どもたちが広い県土の自然や歴史に触れ、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの復興の現状を体感できる本県ならではの魅力づくりに一層力を注いでほしい。
県によると、昨年度に県内で教育旅行を実施した学校は2751校で、新型コロナ禍で過去最少だった前年度(1823校)の約1・5倍に増えた。感染状況が落ち着いた時期に近隣県を中心にした来訪が増加したと分析している。今年度も好調で、県外の学校を対象にしたバス経費補助の10月末現在の交付決定は1291件に上り、昨年度の年間1475件に迫る。
県内を旅行先に選んだものの、新型コロナで中止した学校は2825校あり、実施校より多かった。キャンセルされた宿泊者は延べ約33万6千人分に達する。経済的損失だけでなく、「福島の今」を伝える機会も失われたが、本県を旅行先に選ぶ流れが定着しつつあるとも言える。
震災前は年間8千校、70万人を受け入れてきた。震災発生後、県が復興への歩みを学びや旅行の素材に生かす「ホープツーリズム」を推進した結果、2019年度は7千校、51万人にまで回復した。以降は感染症の拡大で大幅に減少していた。
ホープツーリズム受け入れの中核的な施設である東日本大震災・原子力災害伝承館(双葉町)によると、4月からの入館者数は5万7千人を超え、昨年度の年間約5万8千人を早ければ月内にも上回るペースという。ただ、県外からの来館者が全体の3~4割程度にとどまるのが課題で、首都圏などで出張展示事業を計画するなどして全国への浸透を図っている。
会津、中通りには、それぞれの特色を生かした歴史学習・伝統文化体験、自然体験・環境学習、農業体験・農家民泊などのモデルコースがある。県観光物産交流協会が窓口となり、ワンストップで学校関係者や旅行会社からの問い合わせに応じている。
密による感染リスクから首都圏、関西など大都市部への旅行を回避する動きは今後も続く可能性がある。本県の独自色や付加価値が高まれば、旅行先選びでの大きな動機付けになるはずだ。県や市町村が設ける補助制度も後押しになる。広くPRし、内容も充実させて回復基調をより確かにしたい。(古川雄二)