論説

【浜通りの芸術文化】復興の新たな推進力に(11月24日)

2022/11/24 09:10

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 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの復興へ歩む浜通りで、演劇や映像などで災害の教訓を伝え、地域のにぎわい創出も目指す活動が広がっている。芸術文化で被災地の復興を前に進める新たな試みとして注目したい。

 NPO法人富岡町3・11を語る会は来年1月、地域活性化の一助になるよう富岡演劇祭を町内で初めて催す。上演団体を公募し、原発事故による避難生活や避難区域の解除、住民帰還など原発事故発生後、困難に直面している町民のコミュニティー再生への思いなどを表現してもらう。

 特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示が解除された双葉町に先月、石川町出身の著名な演出家が移り住んだ。原発事故が起きるまでの半世紀にわたる住民の苦悩や葛藤を描いた作品をこれまで制作してきた。移住後は帰還住民と移住者の出会いなどによって紡がれた新たな物語を直接感じ取り、作品に生かしていく。若手演劇関係者らが集う拠点を構え、復興状況の発信にも取り組む予定だ。

 国は今夏、福島浜通り映像・芸術文化プロジェクトを打ち出した。映画制作を通して、住民帰還の促進と交流人口の拡大を後押しするのが目的だ。地域の独自性を高め、住民の自信と誇りも醸成する。今年度は、東京都内の専門学校生らが短編映画を制作し、帰還住民の心情などを表現した。県内外の中高生の撮影会や監督の被災地視察も展開した。廃校の活用、被災家屋の保存など映像制作の面から見た被災地の持つ可能性を浮かび上がらせる成果を生んだ。

 来年度は演劇、音楽、現代アートなどにも分野を広げる。芸術家が半年程度滞在して作品を制作する経費を支援するとともに、発表の機会も設けるとしている。被災地には住民、建物、文化のどれをとっても震災と原発事故にまつわる物語がある。復興のみならず、帰還困難区域や廃炉など原発事故発生から11年余りを経ても解決しない課題は多い。こうした現状をあらゆる芸術の分野で取り上げていくのは、教訓を継承する手段として効果的だろう。

 新しい芸術文化が根付くまでには相当な時間を要する。国には将来にわたり十分な予算を確保するよう求めたい。創作活動の場を移した芸術家と地元の関係者が交流を深める機会も設けてほしい。そうした取り組みが浜通りを芸術文化の一大拠点に育てる。さまざまな団体が連携し、被災地全体を舞台にした作品発表にも期待したい。多くの人が訪れ、にぎわいの創出につながるはずだ。(円谷真路)