論説

【福島ゆかりの映画】発信力に期待(11月29日)

2022/11/29 09:54

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 アニメ映画「君の名は。」で社会現象を巻き起こした新海誠監督の最新作「すずめの戸締まり」が県内の映画館でも上映されている。東日本大震災の記憶を伝える作品で、本県とみられる被災地の様子も描かれている。東京電力福島第1原発事故を含め、本県との関わりのある映画の製作が続く。歴史物もある。地域の現状や魅力を発信する役割にも注目し、映画文化を高めていきたい。

 「すずめの戸締まり」は福島市出身の映像クリエーター丹治匠さんが美術監督を務めるなど、福島とのゆかりが深い。震災孤児である17歳の主人公鈴芽[すずめ]が、災いをもたらす扉を閉めながら旅をする。震災発生から刻々と月日が過ぎゆく中で、新海監督は若い世代と記憶や経験を共有するのは今しかないと考え、製作に至ったと明かす。アニメならではの娯楽性を重視し、あえてユーモアやアクションにもこだわったという。

 丹治さんは「君の名は。」に続いて美術監督を担った。名画にも写真にも見えるような繊細な背景は、大きな見どころの一つ。福島で育った少年時代の思い出が色彩感覚などに影響しているという。「すずめの戸締まり」の公開に合わせ、丹治さんが手がけた絵本の原画展が12月6日まで福島市写真美術館で開かれている。郷土が生んだ第一人者の心に触れる貴重な機会になるだろう。

 今年6月には、浪江町などが舞台のアニメ映画「とんがり頭のごん太|2つの名前を生きた福島被災犬の物語|」が公開された。原発事故で離れ離れになった犬と飼い主、ボランティアの絆を実話に基づいて描き、郡山市出身の俳優斉藤暁さんが飼い主の声を担当した。この作品も「すずめの戸締まり」も、何気ない日常の尊さ、困難に向き合う人の強さと優しさに気付かせてくれる。

 ほぼ全編を県内で撮影し、多くの県民が出演した「ALIVEHOON アライブフーン」は海外でも上映され、米国シカゴで開催された「アジアン・ポップアップ・シネマ」で観客賞を受けた。只見町で没した幕末の長岡藩家老河井継之助を描いた「峠 最後のサムライ」は、JR只見線の全線再開通を契機とした観光誘客に一役買った。

 映画のロケを誘致し、製作を支援するフィルムコミッションなどの活動が県内各地で動きだしている。被災地の光と影、苦境に挑む過疎の山村の姿など本県の今を伝え、未来への後押しになるような作品が数多く生まれるよう期待したい。(渡部育夫)