東日本大震災・原発事故

居住制限、避難指示解除準備、緊急時避難準備区域の住民の精神的損害を新たな賠償対象に 原賠審が見直し方針

2022/11/29 10:14

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 文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)は28日、東京電力福島第1原発事故に伴う国の賠償基準「中間指針」の見直しで、居住制限区域や避難指示解除準備区域、緊急時避難準備区域の住民に関し、生活基盤が変容したことに対する精神的損害を新たな賠償対象として追加する方針で一致した。原発事故発生直後の過酷な状況での避難、計画的避難区域に一定期間とどまったことで生じた健康不安への精神的損害を認める方向性も決めた。見直し内容は第5次追補に盛り込む。

 「生活基盤」について、人のつながりや自然環境などを含む経済的・社会的・文化的・自然的環境全般を意味し、ハード面の社会基盤(インフラ)に限らないと整理した。確定した高裁判決が認めた「故郷(ふるさと)の喪失・変容」の「故郷」と同じ概念で、生活基盤の毀損(きそん)の程度で「喪失」と「変容」を区別する。

 賠償額の目安は、中間指針に示されている帰還困難区域の生活基盤喪失による精神的損害を考慮して算出する。ほとんどの市町村で居住制限区域と避難指示解除準備区域の避難指示が同時に解除された経緯を踏まえ、両区域の賠償額に差を付けないとした。金額は帰還困難区域よりも下回る額とする方針。

 緊急時避難準備区域も生活基盤が一定程度変容したとみなすが、賠償額は居住制限区域などより低く設定する方向とした。

 過酷避難状況とは、原発事故発生当初、放射線などへの不安を抱えつつ、着の身着のままの過酷な状況で避難を強いられた状況と位置づけ、賠償すべき損害と認めた。福島第1原発から半径20㌔圏内で警戒区域に設定された地域などの住民が対象となる。

 計画的避難区域の住民は、避難までに相当量の放射線量地域に一定期間滞在したことで安心して生活する利益を侵害されたと認定できるとし、健康不安に対する精神的損害を賠償すべきとした。

 それぞれの賠償額の目安は今後の議論で詳細を詰める。次回の原賠審会合は12月5日の予定で、残された論点の要介護者や身体・精神障害者らへの賠償増額、自主的避難による精神的損害などについて検討する。


■原賠審が中間指針の見直しで新たに賠償対象と認める損害

・生活基盤の変容に伴う精神的損害

・原発事故発生当初の過酷避難状況に伴う精神的損害

・相当量の線量地域に一定期間滞在したことに伴う健康不安に対する精神的損害


■今後議論する賠償対象の論点

・要介護者や身体障害者、精神障害者らへの賠償の増額

・自主的避難などによる精神的損害