東日本大震災と東京電力福島第1原発事故で大きな被害を受けた相双地方で、市町村の慢性的な人材不足が課題となっている。新型コロナウイルスやマイナンバーカードなど、新しい分野への対応にも追われている。国や県の支援に加え、民間の力も借りて、より安定的な人材供給体制を整える必要がある。
避難指示解除後の農地復旧を巡っては、技術系職員が足りていない。神奈川県は大手企業の退職技術者らを任期付き県職員として採用し、被災地に派遣している。その多くは南相馬市や浪江町などで活動している。
被災地に派遣する人材は、総務省が県を通じて市町村から要望を受け、全国の自治体から公募している。震災直後は協力する自治体が多かった。10年以上が経過した現在は減少傾向にある。原発事故の影響で復旧が遅れていることへの理解不足も背景にあるという。そうした中で、企業の退職者を受け入れている神奈川県の取り組みは、復興に大きく貢献している。
本県も企業の退職者を受け入れてはいるが、人口規模の大きい首都圏に比べて応募者は少ない。国への派遣要請は年度ごとに変化するため、希望通りの人員を確保できるかどうかも不透明だ。国は相双地方の現状を広く発信し、多くの民間出身者らの協力を確保できるよう積極的に働きかけてもらいたい。
業務内容によっては民間に委託する方法もある。南相馬市では、マイナンバーカード交付時の民間によるマイナポイント申請窓口が市内の商業施設に開設された。全国の自治体から受託しているエスプールグローカル(本社・東京)が運営している。
エスプールグローカルを利用する大分県中津市は、住民健診受診率が国の目標値である60%に対して、35%と低かったことから、電話での受診勧奨業務を委託した。専用のコールセンターを設けて土日を含めた全日、電話をかけられる態勢を整え、受診率向上につなげている。北海道の複数の自治体は、共同で新型コロナワクチンの予約受け付けを発注し、コストを抑えながら職員の負担軽減を図った。
南相馬市の窓口では、12月からマイナンバーカードの申請も受け付ける。デジタル技術を生かし、近隣町村に対して同様の業務を請け負う広域的な行政サービスの受注を目指している。増加する業務の効率的な処理に向け、人材不足に悩む自治体は全国の事例を参考に、他市町村と連携して民間活用も推し進めるべきだろう。(平田団)