文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)は20日、東京電力福島第1原発事故に伴う国の賠償基準「中間指針」を見直して対象を大幅に拡充する第5次追補を決定し、公表した。長期避難による「生活基盤(ふるさと)変容」は最大で1人当たり250万円、事故直後の「過酷避難状況」は1人当たり30万円などとする賠償額を示した。今後、東電は第5次追補の内容を踏まえ、被害者への追加賠償を進める。
中間指針の見直しは2013(平成25)年12月以来、9年ぶり。第5次追補で新たに認められた損害の主な賠償額は以下の通り。避難指示解除まで時間を要した居住制限区域と避難指示解除準備区域の住民は1人当たり250万円、緊急時避難準備区域は1人当たり50万円とした。立ち入りが制限されている帰還困難区域については「生活基盤の喪失」と整理した。
「過酷避難状況」は福島第1原発から半径20㌔圏内と福島第2原発から半径8㌔圏内の住民には1人当たり30万円を支払うとした。相当量の線量地域に一定期間滞在したことによる健康不安に基づく精神的損害と認めた。県北地方など23市町村が対象の自主的避難等対象区域の子ども・妊婦以外の住民に対する精神的損害の賠償対象期間を事故発生から2011(平成23)年12月まで拡大した。
原賠審の中間指針の見直しは2013(平成25)年以来、9年ぶり。中間指針を上回る賠償を認めた七つの集団訴訟の高裁判決が3月の最高裁決定で確定したことを受け、これまでの中間指針の考え方にはなかった共通する損害を新たに類型化した。原子力損害賠償紛争解決センターの和解実績を踏まえた新基準も取り入れた。
内田貴会長(東京大名誉教授)は取りまとめ後、「被害者に寄り添って賠償基準をつくる観点から、それなりの目的を達成できた」と述べた。第5次追補と裁判外紛争解決手続き(ADR)での和解金額に差が生じた場合については「原発のADRでは清算条項がなく、差額が生じれば改めて請求できる」とした。裁判での確定額が指針の金額に満たなかった場合は、裁判外で個別的に判断するようになるという。
東電の小早川智明社長は20日、記者団の取材に対し、追加賠償の開始時期について「来年1月にはできる範囲で内容を示したい。一部には検討に時間がかかる部分もあるが、そこもできるだけ速やかに対応したい」と述べた。
■中間指針第5次追補で新たに認められた主な損害の賠償額の目安
▽過酷避難状況による精神的損害
・東京電力福島第1原発から半径20㌔圏内と福島第2原発から半径8㌔圏内の住民に1人当たり30万円
・福島第1原発から半径20㌔圏外で、福島第2原発の半径8㌔から10㌔までの区域の住民に1人当たり15万円
▽生活基盤変容による精神的損害
・居住制限区域と避難指示解除準備区域の住民に1人当たり250万円
・緊急時避難準備区域の住民に1人当たり50万円
▽相当量の線量地域に一定期間滞在したことによる健康不安に基づく精神的損害
・計画的避難区域と特定避難勧奨地点の住民のうち、子ども・妊婦に1人当たり60万円(月額6万円)、それ以外の人に1人当たり30万円(月額3万円)
▽自主的避難などへの損害
・県北地方など23市町村の自主的避難対象区域の住民のうち、子ども・妊婦以外の人に1人当たり20万円(第1次追補で示した8万円など既に賠償されたものは控除できる)
・避難指示等対象区域から自主的避難等対象区域に避難した住民のうち、子ども・妊婦以外の人に1人当たり10万円