東日本大震災・原発事故

集団訴訟の確定判決などを踏まえた損害の賠償指針 原子力損害賠償紛争審査会 中間指針第5次追補 全文

2022/12/21 10:10

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 東京電力株式会社福島第1、第2原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針第5次追補(集団訴訟の確定判決等を踏まえた指針の見直しについて)

(令和4年12月20日 原子力損害賠償紛争審査会)

第1はじめに

 ①経緯

 原子力損害賠償紛争審査会(以下「本審査会」という。)は、平成23年8月5日に決定・公表した「東京電力株式会社福島第1、第2原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」(以下「中間指針」という。)において、政府による避難等の指示等に係る損害の範囲に関する考え方を示したが、その際、避難区域等の見直し等の状況の変化に伴い、必要に応じて改めて指針で示すべき事項について検討することとした。

 その後、本審査会は、平成23年12月6日に「東京電力株式会社福島第1、第2原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針追補(自主的避難等に係る損害について)」(以下「第1次追補」という。)、平成24年3月16日に「東京電力株式会社福島第1、第2原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針第2次追補(政府による避難区域等の見直し等に係る損害について)」(以下「第2次追補」という。)、平成25年12月26日に「東京電力株式会社福島第1、第2原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針第4次追補(避難指示の長期化等に係る損害について)」(以下「第4次追補」という。)を決定・公表し、避難区域等の見直し等の状況に応じて、損害の範囲や賠償の考え方を示してきた。

 第4次追補の決定・公表以降、東京電力ホールディングス株式会社(以下「東京電力株式会社」という。)による直接の賠償や、原子力損害賠償紛争解決センター(以下「ADRセンター」という。)による和解の仲介による賠償が進む一方で、各地で提起された訴訟も進行し、令和4年3月の最高裁判所決定により、7つの集団訴訟における東京電力株式会社の損害賠償額に係る部分の高裁判決が確定した。これら確定した7つの判決(以下、これら7つの判決を併せて「確定判決」という。)において認定された精神的損害に対する慰謝料の考え方や金額が、本審査会の指針が示す目安と異なる部分があることや、判決間でも相違が認められることから、同年4月27日に開催された本審査会第56回会合において、法律の学識経験者から専門委員を任命し、確定判決における本審査会の指針の内容についての評価、本審査会の指針には示されていない類型化が可能な損害項目や損害額の算定方法等の新しい考え方が抽出可能か等について、必要に応じ、ADRセンターにおける事例(和解・打切り)の情報提供も受け、詳細に調査・分析を行うことを確認した。専門委員による調査・分析については、同年11月10日に開催された本審査会第59回会合に最終報告が提出された。本審査会は、最終報告で指摘された、本審査会の指針には示されていない類型化が可能な損害項目や損害額の算定方法等を踏まえ、本審査会の指針の見直し等について検討してきた。

 本審査会の指針は、多数の被害者に共通する一定の損害類型を示し、同じ損害類型の中で時期や行動態様で差が生じないようにするなど、公平性の確保、被害者の立証負担の軽減を図ってきたが、その重要性は、本審査会が行った現地でのヒアリングにおいても改めて確認されたところであり、その点に留意して本審査会の指針の見直し等に当たった。

 ②基本的考え方

 中間指針第2の1で述べたとおり、損害の範囲につき、一般の不法行為に基づく損害賠償請求権における損害の範囲と特別に異なって解する理由はないことを改めて確認する。しかしながら、東京電力株式会社福島第1、第2原子力発電所事故(以下「本件事故」という。)の内容、深刻さ、周辺に及ぼした被害の規模、範囲、期間等は前例なきものであった。

 そこで、この度の中間指針第5次追補(以下「本指針」という。)においては、上記で述べた経緯を踏まえ、本件事故に特有の事情を十分に考慮し、過酷避難状況による精神的損害、生活基盤の喪失・変容による精神的損害、相当量の線量地域に一定期間滞在したことによる健康不安に基礎を置く精神的損害、自主的避難等に係る損害等に関し、これまで示してきた指針に加えて損害の範囲等を示すとともに、本審査会に設置された総括委員会が策定する総括基準のうち、精神的損害の増額事由については、本指針に示すこととし、東京電力株式会社による直接の賠償において広く適用されることにより、今後の迅速、公平かつ適正な賠償の実施による被害者救済に資するものとする。

 なお、本審査会の指針が示す損害額の目安が賠償の上限ではないことはもとより、本審査会の指針において示されなかったものや対象区域として明示されなかった地域が直ちに賠償の対象とならないというものではなく、個別具体的な事情に応じて相当因果関係のある損害と認められるものは、全て賠償の対象となる。東京電力株式会社には、被害者からの賠償請求を真摯に受け止め、本審査会の指針が示す損害額はあくまで目安であり、賠償の上限ではないことに改めて留意するとともに、本審査会の指針で賠償の対象と明記されていない損害についても個別の事例又は類型毎に、指針の趣旨やADRセンターにおける賠償実務も踏まえ、かつ、当該損害の内容に応じて賠償の対象とする等、合理的かつ柔軟な対応と同時に被害者の心情にも配慮した誠実な対応が求められる。さらに、ADRセンターにおける和解の仲介においては、東京電力株式会社が、令和3年8月4日に認定された「第4次総合特別事業計画」において示している「3つの誓い」のうち、特に「和解仲介案の尊重」について、改めて徹底することが求められる。本件事故から既に10年以上が経過した中、本指針による遡及的な賠償は一刻を争うというべきものであり、東京電力株式会社においては、専門委員の最終報告における既に確定した判決や和解済み案件等に係る留意点も踏まえ、迅速に対応することが重要である。

 さらに、第4次追補でも指摘したとおり、本件事故による被害は極めて広範かつ多様であり、被害者一人一人の損害が賠償されたとしても、被災地における生活環境、産業、雇用等の復旧・復興がなければ、被害者の生活再建を図ることは困難である。本審査会としても、東京電力株式会社の誠実な対応による迅速、公平かつ適正な賠償の実施に加え、政府等による復興支援策等が着実に実施されることを求める。


■第2 政府による避難指示等に係る損害について

 中間指針第3の[損害項目]の2の避難費用及び6の精神的損害について、中間指針及び第2次追補で示したもののほか、次のとおりとする。

 ①過酷避難状況による精神的損害

[対象区域]

 避難区域(中間指針第3の[対象区域]の(1)「避難区域」をいう。以下同じ。)

 (注)中間指針第3の[対象区域]においては以下のとおり示している。

 (1)避難区域

 政府が原子力災害対策特別措置法に基づいて各地方公共団体の長に対して住民の避難を指示した区域

 ①東京電力株式会社福島第1原子力発電所から半径20キロ圏内(平成23年4月22日には、原則立入り禁止となる警戒区域に設定。)

 ②東京電力株式会社福島第2原子力発電所から半径10キロ圏内(同年4月21日には、半径8キロ圏内に縮小。)

[対象者]

 本件事故発生時に対象区域に居り、同区域外への避難のための立退き(以下「避難」という。)及びこれに引き続く同区域外滞在を余儀なくされた者

[損害項目]

 ▼指針

 Ⅰ)対象者について、放射線に関する情報が不足する中で、被曝の不安と、今後の展開に関する見通しも示されない不安を抱きつつ、着の身着のまま取るものも取り敢えずの過酷な状況の中で避難を強いられたこと(以下「過酷避難状況」という。)による精神的苦痛は、賠償すべき損害と認められる。

 Ⅱ)Ⅰ)の具体的な損害額は、本件事故発生から相当期間にわたって生じた損害として、第1期において実際に避難指示が出されていた期間に応じて、以下を目安に、中間指針第3の[損害項目]の6の第1期において賠償すべき精神的損害の合計額に加算する。

 ①中間指針第3の[対象区域](1)①の全区域及び同(1)②のうち半径8キロ圏内の区域については、1人30万円

 ②中間指針第3の[対象区域](1)②のうち半径8キロから半径10キロまでの区域で、同(1)①以外の区域については、1人15万円

 ▼備考

 1)確定判決のうち複数の判決は、本件事故により避難した者に対し、「避難を余儀なくされたこと」による精神的損害等として、避難生活に伴う精神的損害とは区別し、本件事故発生当初の精神的損害の賠償を認めている。これらの判決は、本件事故直後に、着の身着のまま取るものも取り敢えずの過酷な避難を強いられたことによる精神的苦痛を賠償の対象とするものと考えられる。上記のような区別を設けない判決においても、本件事故発生当初の過酷な避難状況を具体的に指摘して精神的損害の額を算定している。着の身着のまま取るものも取り敢えずの避難は、それ自体極めて過酷であったと考えられる上、放射線関連の情報が不足している中で、被曝の不安を抱きながら避難をしたことや、避難後早くても2カ月間は一時立入りも認められなかったことも重なり、さらにその過酷さが増したと考えられる。このような過酷避難状況による精神的苦痛は、賠償すべき損害と認められる。

 他方、中間指針第3の[損害項目]の6(指針)Ⅰ)において賠償すべきものとされている正常な日常生活の維持・継続を阻害されたために生ずる精神的苦痛に係る精神的損害(避難費用のうち通常の範囲の生活費の増加費用を含む。以下「日常生活阻害慰謝料」という。)は、対象区域から実際に避難した上引き続き同区域外滞在を長期間余儀なくされた者が、自宅以外での生活を長期間余儀なくされ、正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されたために生じた精神的苦痛による損害であり、同備考1)のとおり、日常の平穏な生活が現実に妨害されたことや、避難生活が過酷な状況にあったことにより生じたものである。また、同(指針)Ⅰ)①は、本件事故発生時に対象区域外に居り、同区域内に住居があるものの引き続き同区域外滞在を長期間余儀なくされた者も、同様の精神的損害を被ったものとしている。そうすると、同(指針)Ⅰ)において賠償すべきものとされている損害は、主に避難生活における苦痛や過酷さであって、放射線に関する情報が不足する中での避難行動自体に伴う苦痛や過酷さは、十分に考慮されていなかったといえる。

 そこで、Ⅰ)及びⅡ)のとおり、新たに過酷避難状況による精神的苦痛を賠償すべき損害と認めた上で、その損害額の目安を定めることとしたものである。

 なお、過酷避難状況による精神的苦痛が類型的に生じたと認められる者は、政府の避難指示等により即時の避難を強制され、着の身着のまま取るものも取り敢えずの避難を余儀なくされた者であると考えられる。この点、避難区域については、類型的にこのような過酷避難状況にあったと認められるのに対し、後に避難指示が出された計画的避難区域については、本件事故直後に避難指示が出されたものではなく、また、屋内退避区域、緊急時避難準備区域、特定避難勧奨地点及び地方公共団体が住民に一時避難を要請した区域については、政府の避難指示等により避難を強制されたものではないことから、個別的事情によって過酷な避難状況にあったことが認められる場合もあり得るものの、類型的に着の身着のまま取るものも取り敢えずの避難を余儀なくされたとまでは認められない(他方、後記3のとおり、計画的避難区域や特定避難勧奨地点に一定期間滞在したことにより生じる健康不安を基礎とする精神的損害は、別途賠償すべき損害と認められる。)。

 そこで、対象者を避難区域からの避難及び同区域外滞在を余儀なくされた者に限定し、計画的避難区域、屋内退避区域、緊急時避難準備区域、特定避難勧奨地点及び地方公共団体が住民に一時避難を要請した区域からの避難者並びに本件事故発生時に対象区域外に居り避難を余儀なくされていない者は含まないものとしている。

 2)Ⅱ)の損害額の算定方法に当たっては、以下の点を考慮すると、中間指針の第3の[損害項目]の6の精神的損害に加算する方法が相当である。

 避難行動は、最初の避難所に到着し、避難生活が開始された時点で終了するものではなく、避難所を複数箇所にわたり移動し、その後仮設住宅に入居する者もいることから、避難生活が開始された後も一定期間にわたり継続するものといえ、それに伴って生じる過酷避難状況による精神的苦痛も、一定期間にわたり継続するものといえる。第1期が本件事故発生から6カ月間とされていることからすると、過酷避難状況による精神的苦痛は、第1期において賠償すべきものとされている正常な日常生活の維持・継続が阻害されたために生じた精神的苦痛と同時に生じるものといえる。

 また、過酷避難状況による精神的苦痛は、避難生活の基盤が整備されるに伴い次第に縮減する面があると考えられることや、本件事故発生当初の一時立入り制限によってもたらされる苦痛は、過酷避難状況による精神的苦痛であるとともに、正常な日常生活の維持・継続が阻害されたことによる精神的苦痛であるともいえることからすると、両者は、内容的にも重なり合う性質を有するものといえる。

 以上に加え、過酷避難状況による精神的苦痛と日常生活の維持・継続の阻害による精神的苦痛については、本件事故を原因として、突然の避難行為を余儀なくされ、その後も生活の場を転々とせざるを得ない避難行為を余儀なくされたこと自体によって前者の損害が、また、その結果として後者の損害がそれぞれもたらされたものであることに鑑みるならば、両者を別個の損害項目とすることは必ずしも妥当とはいえず、同一の損害項目における損害額算定における考慮要素とすることが相当である。

 3)Ⅱ)の損害額の算定に当たっては、過酷避難状況が継続した期間を考慮しつつ、同様に第1期の精神的損害の加算要素とされている避難所等において避難生活をしていた場合の加算額の目安が1人月額2万円であることなどを考慮することが相当である。

 具体的な賠償の対象となる期間及び損害額の目安については、Ⅰ)に示した過酷避難状況は、本件事故発生当初の時期が特に顕著であったと考えられるが、その後も実際に一時立入りができるまでの期間には幅があるなど、着の身着のまま取るものも取り敢えずの過酷な状況が存続した期間は避難者によって多岐にわたり、過酷避難状況が認められる期間を明確に示すことは困難であるものの、少なくとも第1期の期間中の相当期間にわたって過酷避難状況による精神的損害が生じていたものといえる。

 そこで、第1期において実際に避難指示が出されていた期間が、中間指針第3の[対象区域](1)①の全区域及び同(1)②のうち半径8キロ圏内の区域については第1期全体にわたるのに対し、同(1)②のうち半径8キロから10キロまでの区域については平成23年4月21日までであることから、前者は第1期の期間を通じて30万円を目安に加算することとし、後者のうち中間指針第3の[対象区域](1)①に含まれない区域は、避難指示が出されていた期間2カ月間について、本件事故発生当初の時期に過酷避難状況が特に顕著であったことを考慮し、15万円を目安に加算することが相当である。

 4)Ⅱ)の損害額については、避難状況等の個別具体的な事情に応じて、これを上回る金額が認められ得る。


 ②避難費用、日常生活阻害慰謝料及び生活基盤喪失・変容による精神的損害

(注)第4次追補第2の1を全面的に改訂するものである。

 ▼指針

 Ⅰ)避難指示区域(帰還困難区域、居住制限区域及び避難指示解除準備区域をいう。以下同じ。)及び緊急時避難準備区域において賠償すべき避難費用、日常生活阻害慰謝料及び生活基盤喪失・変容による精神的損害の具体的な損害額については、避難者の住居があった地域に応じて、以下のとおりとする。

 ①避難費用及び日常生活阻害慰謝料

 ⅰ)帰還困難区域又は大熊町若しくは双葉町の居住制限区域若しくは避難指示解除準備区域(以下「帰還困難区域等」という。)については、特段の事情がある場合を除き平成30年3月末までを賠償の対象となる期間の目安とし、日常生活阻害慰謝料については1人月額10万円を目安とする。

 ⅱ)居住制限区域及び避難指示解除準備区域(いずれもⅰ)の区域を除く。以下2において同じ。)については、特段の事情がある場合を除き平成30年3月末までを賠償の対象となる期間の目安とし、日常生活阻害慰謝料については1人月額10万円を目安とする。

 ⅲ)緊急時避難準備区域については、特段の事情がある場合を除き平成24年8月末まで(楢葉町の区域については、平成30年3月末まで)を賠償の対象となる期間の目安とし、日常生活阻害慰謝料については1人月額10万円を目安とする。

 ②生活基盤喪失・変容による精神的損害

 ⅰ)帰還困難区域等については、生活基盤喪失による精神的損害として、1人700万円を目安とする。

 ⅱ)居住制限区域及び避難指示解除準備区域については、生活基盤変容による精神的損害として、1人250万円を目安とする。

 ⅲ)緊急時避難準備区域については、生活基盤変容による精神的損害として、1人50万円を目安とする。

 Ⅱ)第4次追補第2の2の(指針)Ⅰ)及びⅡ)で示す住居確保に係る損害の賠償を受ける者の避難費用(生活費増加費用及び宿泊費等)が賠償の対象となる期間は、特段の事情がない限り、住居確保に係る損害の賠償を受けることが可能になった後、他所で住居を取得又は賃借し、転居する時期までとする。ただし、合理的な時期までに他所で住居を取得又は賃借し、転居しない者については、合理的な時期までとする。

 ▼備考

 1)本指針第2の2は、第4次追補第2の1(以下「旧指針」という。)を改訂するものである。

 旧指針は、「避難費用及び精神的損害」として、避難指示区域の第3期において賠償すべき精神的損害の損害額について、帰還困難区域等は長期間にわたって帰還不能となり、そこでの生活の断念を余儀なくされたことによる精神的苦痛等を賠償するものとして1000万円を加算し、その他の区域は引き続き1人月額10万円を目安とすること(旧指針(指針)Ⅰ))、住居確保に係る損害の賠償を受ける者の避難費用の賠償の対象となる期間(旧指針(指針)Ⅱ))、中間指針において避難費用及び精神的損害が特段の事情がある場合を除き賠償の対象とはならないとしている「避難指示等の解除等から相当期間経過後」の「相当期間」の目安を避難指示区域については1年間とすること(旧指針(指針)Ⅲ))を規定していた。

 この点、本指針では、Ⅰ)②において、旧指針(指針)Ⅰ)の1000万円の加算額については、そのうち700万円が「生活基盤喪失による精神的損害」である点を明確にした上で、居住制限区域及び避難指示解除準備区域についても新たに「生活基盤変容による精神的損害」の損害額の目安を定めたため、旧指針(指針)Ⅰ)は大きく変更されることとなったこと、Ⅰ)①において、避難指示区域における避難費用及び日常生活阻害慰謝料の賠償の対象となる期間については一律に平成30年3月末を目安としたことから、旧指針(指針)Ⅲ)の「相当期間」の定めは不要となったこと、また、緊急時避難準備区域についても新たに「生活基盤変容による精神的損害」の損害額の目安を定めることとし、同区域の避難費用及び日常生活阻害慰謝料の賠償の対象となる期間も併せて規定したことなどから、より変更点を簡明にするため、全面的に改訂することとしたものである。

 2)Ⅰ)について、「生活基盤喪失・変容による精神的損害」とは、以下のとおりである。

 「生活基盤」とは、被害者にとっての本件事故前の生活の基盤を指し、人的関係や自然環境なども包摂する経済的・社会的・文化的・自然的環境全般を意味するものであり、ハード面のインフラに尽きるものではない。この点に関し、確定判決のうちの一部の判決が認定する「故郷の喪失又は変容」におけるいわゆる「故郷」は、前記の生活基盤と同義であるか、あるいは、その生活基盤を被害者の側から捉え直したものであると考えられる。

 その上で、損害の類型的把握の観点からは、前記の生活基盤の毀損についての賠償内容を定めることで足りると考えれば、生活基盤の「変容」と「喪失」については、「変容」は、生活基盤がかなりの程度毀損されたことを意味し、「喪失」は、生活基盤が著しく毀損されたことを意味すると考えられる。以上を踏まえると、「生活基盤の喪失による精神的損害」とは、生活基盤が本件事故前の状況から著しく毀損されたことにより被害者に生ずる精神的損害を意味し、同損害は帰還困難区域等に居住していた住民に生ずるものであるといえる。一方、「生活基盤の変容による精神的損害」とは、生活基盤が本件事故前の状況からかなりの程度毀損されたことにより被害者に生ずる精神的損害を意味し、同損害は、居住制限区域及び避難指示解除準備区域並びに緊急時避難準備区域に居住していた住民に生ずるものといえる。

 3)Ⅰ)①ⅰ)は、帰還困難区域等の日常生活阻害慰謝料について、帰還困難区域等の精神的損害の賠償の対象となる期間の目安を、平成30年3月末までの85カ月間(月額10万円、合計850万円)とするものである。

 これは、帰還困難区域等の日常生活阻害慰謝料の賠償の対象となる期間の目安について、従前、第1期及び第2期における賠償期間である平成23年3月から平成24年5月までの15カ月間(合計150万円)と、第2次追補第2の1(1)(指針)Ⅲ)③で定められた第3期における精神的損害の目安である一括600万円を月額換算した平成24年6月から平成29年5月末までの60カ月間(合計600万円)とを併せて75カ月間(合計750万円)とみなされていたところ、確定判決が認める帰還困難区域等の避難状況の実情や、後記備考4)のとおり、東京電力株式会社が、「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」改訂(平成27年6月12日閣議決定)を踏まえて、居住制限区域や避難指示解除準備区域について避難指示解除の時期を問わず平成30年3月末まで精神的損害を賠償していることとの均衡を考慮して、帰還困難区域等についても、平成30年3月末までの85カ月間(合計850万円)に改めるものである。

 4)Ⅰ)①ⅱ)は、居住制限区域及び避難指示解除準備区域の日常生活阻害慰謝料について、避難指示の解除時期は各自治体によって異なるものの、早期に避難指示を解除した場合においても、帰還した住民の生活再構築のためには復興支援を通じた両区域全体としての環境整備が必要となる点に配慮し、解除の時期に関わらず、賠償の必要性が認められること(前記「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」改訂)、これを踏まえて、東京電力株式会社が、避難指示解除の時期を問わず平成30年3月末までの期間について月額10万円を目安とする賠償を行っていること、確定判決においても避難指示解除の時期を問わず、月額10万円の精神的損害の賠償を平成30年3月末まで認めていることを踏まえ、平成30年3月末まで、1人月額10万円を目安とした。

 5)Ⅰ)①ⅲ)(緊急時避難準備区域)の日常生活阻害慰謝料については、楢葉町の同区域以外は第2次追補第2の1(2)と同様である。楢葉町については、同町のほとんどが避難指示区域である等の特別の事情があることを考慮し、避難費用も含め、避難指示区域と同様平成30年3月末までを目安とした。

 6)旧指針(指針)Ⅲ)は、中間指針において精神的損害が特段の事情がある場合を除き賠償の対象とはならないとしている「避難指示の解除等から相当期間経過後」の「相当期間」は、避難指示区域については1年間を当面の目安とするものとしていた。

 Ⅰ)①のとおり、日常生活阻害慰謝料について、緊急時避難準備区域も含めて一律に終期の目安を定めたため、避難費用についてもこれと同様の時期を目安とした上で、不要となった旧指針(指針)Ⅲ)の規定を削除することとした。これに伴い、第2次追補第2の1(1)(指針)Ⅳ)及び(2)(指針)Ⅲ)の規定も、本指針Ⅰ)①のとおり改められることとなる。

 7)Ⅰ)②ⅰ)について、旧指針(指針)Ⅰ)①では、第3期の精神的損害として1000万円を加算し、帰還困難区域等において長期間にわたって帰還不能となり、そこでの生活の断念を余儀なくされたことによる精神的苦痛等を一括して賠償することとしている。この点につき、旧指針(指針)Ⅰ)①は、形式的には平成26年3月時点における第3期の精神的損害として、その時点以降将来生ずる損害も含めて1000万円を賠償することとしているものであるが、第2次追補による一括賠償額600万円を月額換算した場合の将来分300万円(生活費増加分は除く。)は重複するものとして、これを1000万円から控除して700万円とすることにより、第2次追補との調整を図っていることから、実質的には前記の精神的苦痛等を一括して賠償する額を700万円とするものである。そして、旧指針(指針)Ⅰ)①におけるこの700万円を一括して賠償する趣旨は、実質的には、生活基盤が本件事故前の状況から著しく毀損されたことにより被害者に生ずる精神的損害を賠償するものと同義であると解され、帰還困難区域等における生活基盤喪失による精神的損害を賠償する性質のものであるといえる。そのため、旧指針(指針)Ⅰ)①の内容を変更する必要性を裏付ける事情は見出すことは困難である。

 また、前記の日常生活阻害慰謝料の目安850万円に前記の生活基盤喪失による精神的損害の損害額の目安700万円及び前記1の過酷避難状況による精神的損害の損害額の目安30万円をそれぞれ加算した合計額である1580万円を見ると、確定判決の帰還困難区域等の住民に対する認容額と同等の水準になっており、帰還困難区域等における精神的損害の損害額としては妥当なものと考えられる。

 8)Ⅰ)②ⅱ)について、居住制限区域及び避難指示解除準備区域においては、長期間に及ぶ避難指示により、本件事故前に当該地域に存在した生活基盤が大きく変容しており、平成29年4月までに全ての避難指示が解除され、物理的インフラの復旧も進み、実際にある程度の住民が帰還するなどして一定の復興を遂げている地域があるものの、その一方で長期間に及ぶ避難指示の期間中に帰還を断念し本拠を別の地へ移した者や、未だに帰還の決断ができない者も相当数存在したことも認められ、本件事故前の状況からかなりの程度毀損された生活基盤が事故前の状況に戻る見通しは立っておらず、このような変容した生活基盤を受け容れざるを得ない状況にあることが認められる。このような状況において帰還をした者、帰還を断念した者、帰還をするか移住をするか決断をできない者のいずれにおいても、生活基盤変容による精神的損害が認められるというべきである。

 Ⅰ)②ⅰ)の生活基盤喪失による精神的損害と、Ⅰ)②ⅱ)の生活基盤変容による精神的損害は、長年住み慣れた住居及び地域から強制的に長期間隔離され、生活基盤が毀損されたことによって生じるという点で、侵害された利益については、侵害の程度に差はあるものの、共通しているといえ、居住制限区域及び避難指示解除準備区域の住民についても、日常生活阻害慰謝料のほか、生活基盤変容による精神的損害を合理的な範囲において賠償すべきものと認められる。

 具体的な損害額の算定に当たっては、生活基盤の「喪失」が生活基盤が著しく毀損されたことを意味するのに対し、生活基盤の「変容」は従前の生活基盤がかなりの程度毀損されたことを意味するところ、生活基盤喪失による精神的損害と生活基盤変容による精神的損害の程度にはなお大きな差があると認めるのが合理的であると考えられ、生活基盤喪失による精神的損害の損害額の目安700万円の半分を下回る額を目安とすることが相当である。そこで、確定判決の認容額(生活基盤変容による精神的損害に対応する認容部分と考えられる金額。避難を余儀なくされた慰謝料と日常生活阻害慰謝料を異なる損害項目としていない判決については、認容額から日常生活阻害慰謝料額を控除した残額。)も考慮して、250万円を目安とした。日常生活阻害慰謝料の目安に生活基盤変容による精神的損害の損害額の目安及び過酷避難状況による精神的損害の損害額の目安を合計すると1130万円となり、確定判決の居住制限区域及び避難指示解除準備区域の住民に対する総額としての認容額と同等の水準となっており、妥当なものと考えられる。

 なお、居住制限区域と避難指示解除準備区域については、①両区域を持つ多くの市町村においても、両区域の避難指示は同時に解除されていること、②居住制限区域であるか避難指示解除準備区域であるかによって、一義的に避難指示期間の長短が決まる関係にないこと(ある自治体の居住制限区域の避難指示解除後に他の自治体の避難指示解除準備区域の避難指示解除がなされている場合もあること)等を考慮すると、両区域間で差を設けるのは相当ではない。

 9)Ⅰ)②ⅲについて、緊急時避難準備区域は、本件事故発生から約6カ月後に指示が全て解除され、避難を実施せずに滞在を続けた居住者も相当数あることから、避難指示区域とは異なり、一定の地域社会が残っていたと考えられるものの、解除後も生活基盤の回復に一定程度の期間を要し、多数の住民の帰還が相当程度の期間できなかったことも認められる。以上を踏まえると、緊急時避難準備区域においても、生活基盤が一定程度変容したものと認められるのであるから、居住制限区域及び避難指示解除準備区域に準じて、生活基盤変容による精神的損害を合理的な範囲において賠償すべきものと認められる。

 具体的な損害額の算定に当たっては、居住制限区域及び避難指示解除準備区域とは異なり、一定の地域社会が残っており、生活基盤の変容の程度が異なることを考慮し、居住制限区域及び避難指示解除準備区域の生活基盤変容による精神的損害の損害額の目安を大きく下回る額を目安とすることが相当である。

 10)Ⅰ)②の各精神的損害は、対象者全員に一律に支払う損害額を目安として示すものであり、本件事故前の居住期間、地域社会等との関わり合い等の個別具体的な事情に応じて、これを上回る金額が認められ得る。

 11)Ⅱ)について、旧指針(備考)5)においては、「合理的な時期」とは、例えば、帰還困難区域等に住居があった避難者については、原発避難者向け災害公営住宅の整備が進捗し、希望者が当該住宅に転居することが可能になると想定される事故後6年後までを目安とすることが考えられる、と規定していた。

 しかしながら、その後の復興公営住宅の整備状況を見ると、必ずしも事故後6年後までに整備でき、希望者が転居することが可能になったとは言いがたく、むしろ概ね各地区において復興公営住宅に入居可能な状況が整ったのは平成30年3月頃であること、住居確保に係る損害の賠償を受ける者以外の者の避難費用については、避難指示区域は一律に賠償の対象となる期間の目安を平成30年3月末までとしたことを考慮し、「合理的な時期」についても平成30年3月末を目安とすることが考えられる。

 12)第4次追補第2の2について、(指針)Ⅰ)及びⅡ)中「前記1のⅠ)①の賠償の対象者」とあるのは、「帰還困難区域等に住居があった者」と読み替えるほか、なお従前の例による。



 ③相当量の線量地域に一定期間滞在したことによる健康不安に基礎を置く精神的損害

[対象区域]

 計画的避難区域及び特定避難勧奨地点

[対象者]

 本件事故発生時に計画的避難区域又は特定避難勧奨地点に生活の本拠としての住居(以下「住居」という。)があった者

[損害項目]

 ▼指針

 Ⅰ)対象者は、安心できる生活空間を享受する利益を一定期間にわたり侵害されたものと認められ、その侵害により生ずる健康不安を基礎とする精神的損害は、賠償すべき損害と認められる。

 Ⅱ)Ⅰ)に係る精神的損害の損害額については、中間指針第3の[損害項目]の6の本件事故発生から平成23年12月末までの間を賠償の対象となる期間として、中間指針第3の[損害項目]の6の精神的損害の損害額に加算するのが相当な算定方法と認められる。

 Ⅲ)Ⅰ)の具体的な損害額の算定に当たっては、対象者のうちの子供及び妊婦については60万円(1人月額6万円)を目安とし、その他の対象者については30万円(1人月額3万円)を目安とする。

 ▼備考

 1)避難指示等の基準(本件事故発生から1年の期間内に積算線量が20ミリシーベルトに達するおそれ)の裏付けとなる線量が測定されたことにより、後に政府が避難指示等を出した場所に一定期間以上滞在した者については、その滞在期間中、生活環境が健康に及ぼす影響について安心できる生活空間を享受する利益を侵害されたものと認められ、その侵害によって生ずる健康不安を基礎とする精神的損害は、自主的避難等対象区域における損害を上回るものであり、賠償に値するものと判断した。

 具体的には、計画的避難区域(東京電力株式会社福島第1原子力発電所から半径20キロ以遠の周辺地域のうち、本件事故発生から1年の期間内に積算線量が20ミリシーベルトに達するおそれのある区域であり、概ね1か月程度の間に、同区域外に計画的に避難することが求められる区域)又は特定避難勧奨地点(計画的避難区域及び警戒区域以外の場所であって、地域的な広がりが見られない本件事故発生から1年間の積算線量が20ミリシーベルトを超えると推定される空間線量率が続いている地点であり、政府が住居単位で設定した上、そこに居住する住民に対する注意喚起、自主避難の支援・促進を行うことを表明した地点)において一定期間(概ね1カ月から2カ月程度の期間を想定している。)以上滞在した者については、健康不安を基礎とする精神的損害が認められるものと判断し、計画的避難区域及び特定避難勧奨地点が同損害の対象区域となる。

 2)[対象者]に関し、本件事故発生時に対象区域に住居があった者については、類型的に一定期間対象区域に滞在したと認めるのが相当である。計画的避難区域の設定は、本件事故から1カ月以上経過した後であり、同区域の居住者においては、同区域設定以前に避難した者や、避難の準備が整っても避難先の確保がままならず、同区域設定から実際の避難開始までに数カ月間滞在の継続を余儀なくされた者など、その行動態様は様々である。また、特定避難勧奨地点の設定は本件事故から3カ月以上経過した平成23年7月以降であり、同地点の居住者のうちの多くが避難をしたが、同地点に滞在した者も一定数存在する。このような実情に照らすと、対象区域の居住者について、避難を開始した時期や滞在期間を特定した上で、それに対応する形で賠償の態様に差を設けることは、公平性や立証負担の観点から適切ではなく、対象区域の居住者については、避難の実施時期を問わず同等に類型的取扱いをすることに合理性があるというべきである。

 なお、福島第1原子力発電所から半径20キロ圏内の区域は、避難指示の対象であり、一定期間同区域に滞在することは想定されないため、同区域に住居があった者はここでの対象者からは除外される。もっとも、個別具体的な事情に基づいて、避難の過程で計画的避難区域に一定期間滞在したと認められる場合には、Ⅰ)の精神的損害が認められ得る。

 3)Ⅱ)の賠償の対象となる期間について、安心できる生活空間を享受する利益の侵害により生ずる健康不安は、その性質上、対象区域から避難することにより直ちに解消されるものではなく、避難実行後も引き続き存続すると考えられる。この点に関し、福島県が実施した調査(福島県県民健康管理調査「基本調査(外部被曝線量の推計)、甲状腺検査」の概要について(福島県「県民健康管理調査」検討委員会 平成23年12月13日))においては、住民の行動記録を基にした外部被曝線量の推計値が、これまでの疫学調査の結果から発がんリスクが増加することが指摘される100ミリシーベルトを下回っていることから、「放射線による健康影響があるとは考えにくい」とされており、同調査の結果が平成23年12月に公表されたことにより、前記の健康不安はある程度軽減されたものと考えられるものの、それまでの間は健康不安が軽減されることなく存続したと考えられるから、本件事故発生から平成23年12月末までの期間を賠償の対象となる期間とすることが相当である。

 4)Ⅱ)の損害額の算定方法については、Ⅰ)の精神的損害は、中間指針第3の[損害項目]の6において考慮されていないと解されるから、中間指針第3の[損害項目]の精神的損害又はこれに準ずる損害の賠償に吸収されることなく賠償されるべきであり、一方で、Ⅰ)の精神的損害の賠償の対象となる期間(本件事故発生から平成23年12月末まで)においては、Ⅰ)の精神的損害と中間指針第3の[損害項目]の6の精神的損害とこれに準ずる損害が並行して生じているものといえるから、Ⅰ)の精神的損害は、日常生活阻害慰謝料又はこれに準ずる慰謝料に加算する形で賠償することが相当である。

 5)Ⅲ)の具体的な損害額の算定に当たっては、計画的避難区域の住民については、住居の所在地にかかわらず同等に類型的取扱いをすることが相当である。計画的避難区域が帰還困難区域、居住制限区域及び避難指示解除準備区域に見直されるまでの間は、住民において、その住居の所在地の積算線量を推し量る術はなく、また、実際に区域が見直されたのは、早くても平成24年4月(南相馬市は平成24年4月16日、飯舘村は平成24年7月17日、葛尾村は平成25年3月22日、浪江町は平成25年4月1日、川俣町は平成25年8月8日)であることを考えると、本件事故発生から平成23年12月末までの期間において生じた不安及び損害の程度は住民の住居の所在地にかかわらず一様であったと認めることが合理的である。また、特定避難勧奨地点の住民については、その不安及び損害の程度は、計画的避難区域の住民と同様であったと認めるのが相当である。

 6)Ⅲ)の具体的な損害額の算定に当たっては、前記1)のとおり、ここでの精神的損害は、自主的避難等対象区域における損害を上回るものであるから、損害額も同区域の損害額を上回ることとするのが相当であり、また、後記第3の自主的避難等に係る損害における扱いと同様に、少なくとも放射線への感受性が高い可能性があることが一般に認識されている子供及び妊婦の場合は、賠償の基礎となる健康不安がより大きかったことには相当な理由があることを考慮し、子供及び妊婦については、60万円(月額6万円)、それら以外の者については、30万円(月額3万円)を加算の目安とする。

 なお、対象区域の住民が自主的避難等対象区域(後記第3の[自主的避難等対象区域]の「自主的避難等対象区域」をいう。以下第2において同じ。)内に避難して滞在した場合において、自主的避難等対象者(後記第3の[対象者]の「自主的避難等対象者」をいう。)の場合に準ずるものとして既に賠償されたものがあれば(後記第3の[対象者]の備考2)参照)、ここでの損害額から控除することが相当である。


 ④精神的損害の増額事由

 ▼指針

 Ⅰ)中間指針第3の[損害項目]の6(指針)Ⅰ)の日常生活阻害慰謝料について、同慰謝料の賠償の対象となる期間において、避難等対象者(中間指針第3の「避難等対象者」をいう。)において以下の事由があり、かつ、通常の避難者と比べてその精神的苦痛が大きいと認められる場合には、目安とされた額よりも増額することとする。

 ①要介護状態にあること

 ②身体又は精神の障害があること

 ③①又は②の者の介護を恒常的に行ったこと

 ④乳幼児の世話を恒常的に行ったこと

 ⑤妊娠中であること

 ⑥重度又は中等度の持病があること

 ⑦⑥の者の介護を恒常的に行ったこと

 ⑧家族の別離、二重生活等が生じたこと

 ⑨避難所の移動回数が多かったこと

 ⑩避難生活に適応が困難な客観的事情であって、上記の事情と同程度以上の困難さがあるものがあったこと

 Ⅱ)Ⅰ)のうち、①から③までの事由があると認められる場合における具体的な損害額の算定方法は、1人月額3万円の増額を目安とする。なお、③の事由が認められる場合において複数の介護者がいるときは、主たる介護者を賠償の対象とする。

 Ⅲ)Ⅰ)のうち、④の事由があると認められる場合における具体的な損害額の算定方法は、以下のとおりとする。なお、同じ乳幼児について複数の者が世話をしていた場合には、主として世話を行った者を賠償の対象とする。

 ア乳幼児(満3歳に満たない者)の世話を恒常的に行っていた者

 1人月額3万円の増額を目安とする。

 イ満3歳以上小学校就学前の幼児の世話を恒常的に行っていた者

 1人月額1万円の増額を目安とする。

 Ⅳ)Ⅰ)のうち、⑤の事由があると認められる場合における具体的な損害額の算定方法は、本件事故発生時に妊娠していた者については、その妊娠月齢にかかわらず一時金として30万円の増額を目安とし、本件事故発生後に妊娠した者については、妊娠期間中月額3万円の増額を目安とする。

 Ⅴ)Ⅰ)のうち、⑥から⑩までの事由があり、かつ、通常の避難者と比べてその精神的苦痛が大きいと認められる場合における具体的な損害額の算定方法は、個別具体的な事情に応じて、ADRセンターの賠償実務を踏まえ、増額することとする。

 ▼備考

 1)本審査会に設置された総括委員会が策定する総括基準は、ADRセンターが個別の事案について和解仲介をする中で、多くの事案に共通する論点についての解決基準等を作ったものであり、複数ある総括基準のうち、東京電力株式会社による直接の賠償において広く適用することが可能と考えられるものについては、それを適用することにより、迅速、公平かつ適正な賠償がさらに促進されることが期待されるところである。

 2)中間指針第3[損害項目]の6(備考)10)は、日常生活阻害慰謝料の額について「あくまでも目安であるから、具体的な賠償に当たって柔軟な対応を妨げるものではない」としており、総括委員会は、このことを踏まえ、平成24年2月14日「総括基準(精神的損害の増額事由等について)」(以下「総括基準」という。)を策定し、その中で日常生活阻害慰謝料の増額事由を定め、ADRセンターにおいては、和解仲介に当たり総括基準を適用する運用が行われているところである。

 Ⅰ)の①から⑩までの事由があり、通常の避難者と比べて精神的苦痛が大きいと認められる場合、その精神的損害は賠償に値するものと考えられるが、一方で、その精神的損害は、日常生活阻害慰謝料において十分に考慮されていたとまではいえず、前記1及び3の精神的損害とも異なる性質のものである(なお、Ⅰ)の⑨の事由と過酷避難状況の関係については、後に7)で言及する。)。以上からすると、総括基準の増額事由が認められ、通常の避難者と比べて精神的苦痛が大きいと認められる場合には、月額で目安が示される日常生活阻害慰謝料に対して、増額をすることになる旨を明記することが相当であり、その増額は、前記1及び3の精神的損害とは別に行われるべきである。

 なお、Ⅰ)の①から⑩までの増額事由は、避難指示等対象区域(中間指針第3の[対象区域]の(1)から(6)までをいう。以下同じ。)における日常生活阻害慰謝料に対する増額についてのものであるが、自主的避難等対象区域において避難を行った者についてもその根拠は妥当するというべきであるから、自主的避難等対象区域についての個別具体的事情を踏まえた賠償においては、その趣旨が尊重されるべきである。

 3)総括基準が定める増額事由のうち、当該事由の内容が明確で、その認定が比較的容易なものについては、増額の目安を示すことが相当である。Ⅱ)は、Ⅰ)の①から③までの増額事由が認められる場合の増額の目安を示すものである。

 増額事由の認定については、例えば、Ⅰ)の①については、介護保険被保険者証において要介護5~1の認定を受けていることが確認できる場合又はその他の資料によりこれと同等の状態にあることが確認できる場合に、Ⅰ)の②については、身体障害者手帳において身体障害等級1~6級の認定若しくは精神障害者保健福祉手帳において精神障害等級1~3級の認定を受けていることが確認できる場合又はその他の資料によりこれと同等の状態にあることが確認できる場合に、増額事由を認定することが考えられる。また、Ⅰ)の③については、例えば、前記の①又は②が認められる者と同居する者については介護を恒常的に行ったことを推認することなどが考えられる。Ⅰ)の①から③までの増額事由が認められる場合には、ADRセンターでの賠償実務に照らせば、ほぼ例外なく、通常の避難者と比べてその精神的苦痛が大きいと認められるから、原則として通常の避難者と比べてその精神的苦痛が大きいという要件を確認することなく、当該事由があると認められることのみをもって増額をすることが相当である。

 増額の目安について、Ⅰ)の①に関しては、要介護認定の等級を問わず、類型的に相当程度日常生活に支障をきたすものと考えられるので、ADRセンターにおける賠償実務を参照し、一律に増額の目安を定めた。

 Ⅰ)の②に関しては、日常生活に支障をきたす際の支障の内容及び程度は個別性が強いことを否定できないが、なお、認定等級を問うことなく、類型的に相当程度日常生活に支障をきたすものと考えることが相当であるから、ADRセンターにおける賠償実務を参照し、一律に増額の目安を定めた。

 Ⅰ)の③に関しては、介護を受けた者と介護を恒常的に行っていた者との間において、日常生活を阻害されたことによる精神的損害の大きさに類型的な差があるとはいえないから、ADRセンターにおける賠償実務を参照し、介護を行う者については、それぞれ介護を受ける者に対応する形で同額の増額の目安を定めた。

 複数の者が恒常的に介護を行った場合については、賠償を定型的かつ迅速に実現する観点からは、主たる介護者を賠償の対象者とすることが相当であるが、実際の負担の程度に応じて、従たる介護者への賠償や主従がなく介護した場合の介護者への賠償を行うべきことや、総額として目安を上回る賠償を行うべき場合があることは当然である。

 介護を受ける者が複数いる場合については、個別具体的な事情に基づいて損害額を算定することが相当であり、類型的な基準を設けて目安を示すこととはしなかった。

 ここに定められた金額は、ADRセンターにおける賠償実務を参照し、Ⅰ)の①から③までの増額事由に共通して認められる増額の目安として示したものであるが、あくまでも目安にとどまり、個別具体的事情を踏まえて目安を上回る増額をすべき場合があることは本審査会の指針の趣旨からして当然である。

 4)Ⅲ)は、Ⅰ)の④の増額事由が認められる場合の増額の目安を示すものである。

 増額事由の認定については、例えば、小学校就学前の子と同居する成人については世話を恒常的に行ったことを推認することなどが考えられる。Ⅰ)の④の増額事由が認められる場合には、ADRセンターでの賠償実務に照らせば、ほぼ例外なく、通常の避難者と比べてその精神的苦痛が大きいと認められるから、原則として通常の避難者と比べてその精神的苦痛が大きいという要件を確認することなく、当該事由があると認められることのみをもって増額をすることが相当である。

 増額の目安については、子の年齢に応じて必要となる世話の内容も異なることから子の年齢を主な基準とし、ADRセンターにおける賠償実務を参照し、増額の目安を定めた。

 複数の者が恒常的に世話を行った場合については、賠償を定型的かつ迅速に実現する観点からは、主として世話を行った者を賠償の対象者とすることが相当であるが、実際の負担の程度に応じて、従として世話をした者への賠償や主従がなく世話をした場合の賠償を行うべきことや、総額として目安を上回る賠償を行うべき場合があることは当然である。

 子が複数いる場合については、個別具体的な事情に基づいて損害額を算定することが相当であり、類型的な基準を設けて目安を示すこととはしなかった。

 ここに定められた金額はあくまでも目安にとどまり、例えば、子の人数、家族との別離や避難先の状況(仮設住宅で手狭、慣れない場所での小児科や幼稚園探しの苦労等)その他の個別事情を考慮してさらに増額をすべき場合があることは、本審査会の指針の趣旨からして当然である。

 5)Ⅳ)はⅠ)の⑤の増額事由が認められる場合の増額の目安を示すものである。

 増額事由の認定については、例えば、母子手帳の記載により認定することや、出産時期から推認することなどが考えられる。Ⅰ)の⑤の増額事由が認められる場合には、ADRセンターでの賠償実務に照らせば、ほぼ例外なく、通常の避難者と比べてその精神的苦痛が大きいと認められるから、原則として通常の避難者と比べてその精神的苦痛が大きいという要件を確認することなく、当該事由があると認められることのみをもって増額をすることが相当である。

 増額の目安について、本件事故発生時に妊娠中の者に関しては、妊娠月齢によりその精神的損害の大きさに差があるとすることは適切でないと考えられることから、賠償は一時金とすることが相当であると判断し、ADRセンターにおける賠償実務を参照し、増額の目安を定めた。また、本件事故発生後に妊娠した者については、妊娠中の期間に応じて日常生活の阻害が生ずると認められることから、賠償は月額によることが相当であると判断し、ADRセンターにおける賠償実務を参照し、増額の目安を定めた。

 ここに定められた金額はあくまでも目安にとどまり、妊娠の経過等の個別事情を考慮して目安を上回る増額をすべき場合があることは、本審査会の指針の趣旨からして当然である。

 6)Ⅴ)は、Ⅰ)の⑥から⑩までの増額事由があり、かつ、通常の避難者と比べてその精神的苦痛が大きいと認められる場合については、増額の目安を定めることはせず、個別具体的な事情に応じて、ADRセンターの賠償実務を踏まえ、増額がされるべきであることを明らかにしたものである。

 Ⅰ)の①から⑤までの増額事由は、当該増額事由の内容が明確であり、その立証方法も簡易で定型的なものであり、増額の目安を定めることにより定型的対応による適正迅速な賠償が期待できる。Ⅰ)の⑥から⑩までの増額事由については、その判断は個別具体的な事情によるところが大きく、増額する場合の金額の算定等については、本指針において目安を定めることをせず、個別具体的事情に応じた、ADRセンターの賠償実務を踏まえた判断に委ねることとした。Ⅰ)の⑥から⑩までの増額事由については、東京電力は、直接の賠償においても、可及的に類型的対応に努めるべきであるし、個別事案においても、各増額事由の趣旨を踏まえた対応を行うべきである。

 7)Ⅰ)の⑨の増額事由は、総括基準においては、避難所への移動回数が多い場合には、それに対応して精神的損害も大きくなることが多いことに着目し、同事由が認められ、かつ、通常の避難者と比べてその精神的苦痛が大きいと認められる場合には、その精神的損害を賠償すべきものとして定められたものである。ところで、本指針においては、過酷避難状況による精神的損害が賠償すべきものとされており、同損害は放射線に関する情報が不足する中での避難行動自体に伴う苦痛や過酷さにより生ずる損害で、第1期の期間中、本件事故発生から相当期間にわたって同損害が生ずるとされているものであ