論説

【郡山市の孫休暇】民間にどう広げるか(12月24日)

2022/12/24 09:05

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 郡山市は職員の孫育てを支援し、子どもを家族ぐるみで育てる体制を整える。出産時の付き添いや孫の世話などに使える休暇制度を来年2月に導入すると決め、庁内で周知を図っている。市が率先するのは結構だが、行政だけで済む話ではない。「ベビーファースト運動」参画を宣言している以上、同様の休暇制度を民間でも導入できるよう環境整備に動くべきではないか。

 市は男性職員に対し、妻の出産補助に最大3日、育児参加に最大5日の有休特別休暇を認めている。対象を祖父母に拡大する「孫休暇」制度採用は県内自治体で初めてとみられ、全国でも宮城県が来年1月からの導入方針を明らかにしているほか、松山市、広島県福山市などにとどまる。

 祖父母の孫育て参加は時代の要請でもある。厚生労働省によると、初孫誕生の平均年齢は男性が63・8歳、女性が62・0歳。「子どものいる人の半数以上が祖父母の立場になっている」との生命保険会社の調査もある。郡山市は市職員約3800人のうち、60歳以上の再任用は約750人おり、孫育て世代は300人程度と見込んでいる。

 職員定年を60歳から65歳に段階的に引き上げる条例改正案が12月定例市議会で可決されており、60代の職員がさらに増えるのは確実だ。共働き世帯が多い中で、孫育ての戦力として祖父母への期待はこれまで以上に高まるのは間違いない。孫休暇は受け入れられやすい制度と言えよう。

 ただ、最大5日の休みでは孫の顔を見るくらいで終わってしまいそうだ。遠方に住んでいればなおさらだろう。そこで、市は特別休暇に加えて年20日ある年次有給休暇の積極取得を呼びかけている。平均で10日ほどしか消化されておらず、孫育てを取得拡大の誘い水としたい考えだ。

 民間からは「よい制度だが、職員の多い市役所だからできる。社員の少ない事業所では難しい」との声が出ている。デジタル技術を生かした業務効率化や働き方改革などを通じて生産性を高め、孫休暇を導入しやすい環境を官民や事業規模の大小にかかわらず整備する必要がある。

 孫休暇は子育て支援、休暇取得を促進し、定年延長などに適合した手法となり得る。市は民間や他自治体への普及を期待しており、成功や失敗事例、運用後に浮かんだ課題や解決への取り組みを公開、提供してもらいたい。後発の参考となるはずだ。

 地域ぐるみで子どもを育てるベビーファースト運動の先進地となるためにも、市の指導力が望まれる。(鞍田炎)