東日本大震災・原発事故

AIで造った!「常磐もの」に合う日本酒 魚種専用酒を開発 福島県浪江町の鈴木酒造店 漁業復興を後押し

2023/01/01 09:23

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AIを活用し、魚種専用酒の開発を進める鈴木さん
AIを活用し、魚種専用酒の開発を進める鈴木さん

 福島県浪江町の鈴木酒造店は人工知能(AI)を活用し、福島県沖で水揚げされた「常磐もの」に合う日本酒を生み出した。酒と、さまざまな魚の味を特殊なセンサーで分析し、相性度を高めた魚種専用酒だ。東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出方針に対し、風評などが懸念される中、社長の鈴木大介さん(49)は「常磐もののさらなる魅力発信につなげ、漁業を支えたい」と意気込む。早ければ1月末にも販売を始める。伝統の技と最先端技術が融合し、浜の復興を後押しする。


 鈴木さんは数年前、味の分析・研究会社「AISSY(東京都)」が手がけた機器に出合った。特殊なセンサーで甘味、塩味、酸味、苦味、うま味の5つの味深さを計測できる。数値化した五角形のグラフになり、味の特徴が分かる仕組みだ。

 人は5つの味を一緒に口にした際においしさを感じやすいという。例えば甘味、塩味、うま味が強い食材の場合、苦味や酸味が加わると「相性が良い」とされる。鈴木さんは「足りない味を酒で補えば、常磐ものをより深く味わえるはず。魚ごとの『専用酒』を作ってみたい」と考えた。

 鈴木さんによると、AIを駆使した酒造りは全国的にも珍しい。2020(令和2)年に古里で事業を再開したのを機に本格的に取り組んだ。イワシはうま味や塩味が強く、ホッキ貝は甘味があるなど、魚ごとに味の数値は異なる。「相性度」は点数化される仕組みだ。足りない味を補うため、通常の醸造手法をベースにした上で、発酵の仕方、コメなど原料の使用量などを変えた。高得点を目指し、試行錯誤を繰り返した。

 「漁業者の力になりたい」。強い思いをずっと抱いていた。鈴木酒造店の代表銘柄「磐城寿」は大漁を祝う酒として漁師に愛された。古里での事業再開は地元の協力もあって実現した。いま、政府の処理水海洋放出方針を受け、地元の漁業者らからは風評を懸念する声が相次ぐ。「漁業者や住民らに支えられて今がある。今度は恩返しをする番」。感謝の気持ちを胸に、新たな酒を醸している。

 これまでにスズキやカレイなど8種類の専用酒を造った。相性度は全て90点を超えた。一部の顧客に試飲してもらうと、好評だった。「多くの人に味わってもらえる」。確かな手応えを得ている。

 年間を通して8種類を順次、販売する計画だ。第1弾はアンコウとヒラメを予定し、1月下旬から2月下旬ごろの発売開始で調整している。鈴木さんは「常磐もののおいしさや安全性を伝えていくための一助になりたい」と決意する。