論説

【震災12年 国の原子力政策】福島の教訓忘れるな(3月3日)

2023/03/03 10:22

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 政府は原発への依存度を低減する方針を転換し、次世代型への建て替えや運転期間の延長など最大限の活用にかじを切った。原子力規制委員会は新規制制度を反対意見がある中で決定した。東京電力福島第1原発事故の教訓がないがしろにされてはいないか。未曽有の被害から今なお復興途上の被災地として厳しく問うていかねばならない。

 60年超の運転延長を可能にする改正法案が今国会に提出された。原発事故発生後に導入された「原則40年、最長60年」という規定を原子炉等規制法から電気事業法に移し、規定の大枠は維持される。しかし、再稼働に向けた審査や行政指導などによる停止期間は除外され、実質的に60年超の運転が認められる。

 切迫したエネルギーの安定供給や脱炭素といった今日的な要請はあるとはいえ、開かれた場で議論が尽くされたとは言い難い。基本方針に対する意見公募で、原発推進方針に批判的な意見も多かったのは、国民の理解が進んでいない表れと言える。

 規制委の対応には憂慮を超え、不信感すら湧く。60年超の運転に対し、委員の1人は一貫して反対の立場を示した。問題を抱えて審査が長期化した原発ほど運転期間が延びるという矛盾が根底にある。山中伸介委員長は今国会に関連法改正案を提出する政治日程に配慮し、異例の多数決で決定した事情を明かした。規制委の独立性が揺らぎ、信頼は大きく損なわれたとの批判は免れない。

 東電の一連のトラブル隠しが発覚した2002(平成14年)以降、県は原子力安全・保安院を経済産業省から分離するよう求めてきた。原発を推進する省内に規制当局が存在する二律背反の体制が不祥事の温床にあるとの訴えは、一部の立地県に広がったものの、聞き入れられなかった。

 推進、規制組織と事業者がもたれ合う固い岩盤を動かし、保安院が廃止され、独立組織として厳格な審査に当たる規制委が誕生したきっかけは原発事故だ。規制委は原点に立ち返る必要がある。

 国の原子力政策は原発事故を踏まえ、国民の理解を重視してきたはずだ。発生から12年が経過し、なし崩し的な対応が目立つ。規制委の姿勢も後退しているように見える。

 福島第1原発は一進一退ながらも廃炉に向かい、福島第2原発も廃止が決まっている。県内の原発が将来的になくなるとしても、無関心であってはなるまい。教訓を風化させないためにも、問題意識を持って国の動きを注視していきたい。(五十嵐稔)