東日本大震災・原発事故

【震災・原発事故12年 復興の分岐点】福島国際研究教育機構 教育機能の議論加速を 人材定着に不可欠

2023/03/03 10:29

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 世界最先端の研究開発や人材育成を担う福島国際研究教育機構(F―REI、エフレイ)は、4月1日の設立まで1カ月を切ったが、その全貌は今だ見えない。研究開発の産業化が前面に打ち出される中、特に地域の人材定着につながる教育機能の在り方の議論は進んでいないのが実情だ。

 「研究項目に伴う教育をどのように進めていくかは今後の課題。全くの白紙だ」。政府が2月25日、福島県福島市で開いた福島復興再生協議会の終了後、渡辺博道復興相は現状を率直に認め、「できるだけ地元との連携を考えていきたい」とその場をしのいだ。人材を育む教育に対する地元の関心は高いが、その道筋は描けていない。

 福島国際研究教育機構は構想段階で「国際教育研究拠点」と呼ばれ、「研究」の前に「教育」が冠されていた。「議論の過程で、産業化の推進を念頭に現在の名称に落ち着いた」。設立の背景に詳しい関係者が明かす。機構は新産業創出を目的とする福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想を前提としているため、研究・開発と産業化を重点にした議論が中心となっている。

 だが、産業化を進める上でも、人材の育成は欠かせない。研究開発に関わる若者らをいかに県内に呼び込むか、本県の未来を担う人材をどう育てていくのかが大きな課題となる。

 政府は機構の中期目標案に人材育成などに関する評価指標を盛り込んだ。ロボットやエネルギーなど5分野の研究テーマについて、大学院生や地域の未来を担う若者世代を対象に人材育成の推進状況を確認する方針だ。県は知事意見として、連携大学院制度の活用や高等専門学校との連携、小中高校生向けの教育プログラムの開発を求めた。県の担当者は「機構と地域をつなぐため教育が果たす役割は大きい」と話す。

 南相馬市の企業などは、教育機能の在り方に熱い視線を送る。市内の小高産業技術高は文部科学省のマイスター・ハイスクール(次世代地域産業人材育成刷新事業)に指定されるなど専門人材の育成を後押ししている。

 一方、相双地方に大学などの高等教育機関がなく、地域外に人材が流れる現状に地元は危機感を強めている。ロボット開発を手掛ける同市原町区の製造業「タカワ精密」の渡辺光貴社長(41)は「研究開発と人材育成の議論は両輪で進めなければバランスを欠く。官民が協働してこそ、優秀な人材が集う地域が実現するのでは」と合意形成の必要性を強調する。

 機構に関する復興庁の有識者会議で委員を務めた関谷直也氏(東京大大学院情報学環境総合防災情報研究センター准教授、災害社会学)は「研究教育の拠点として、長期的に地域の文化を育むという観点が重要だ。地元からは、研究者を含めた若者が機構の取り組みを通して移住・定住することへの期待も大きい。教育機能をどう位置付けるかが施策の成否を左右するだろう」と議論の進展を促す。