論説

【震災12年 相双の農業再生】全国のモデルに(3月7日)

2023/03/07 09:05

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 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の甚大な被害を受けた相双地方で、農業再生に向けた大規模ほ場整備が進む。2023(令和5)年度から2025年度にかけて工事が完了する見通しだ。新しい農地を活用し、全国のモデルになるような農業を官民一体で目指してほしい。

 相馬、双葉郡内35地区合わせて約3200ヘクタールで着工し、相馬、新地両市町を中心に160ヘクタールが完了した。残る大部分は2025年度までに順次、整備される予定だ。

 ほ場は1~4ヘクタール規模の大区画で、大型農機による作業の効率化や省力化を見据えている。福島再生加速化交付金などを活用し、計画は円滑に進む一方で、避難指示が残る地域は調査や調整段階にとどまっている。着工した地区と同様、資金面での手厚い支援が求められる。

 整備後は大区画を生かした農業をどう推進するかが課題となる。県とJAは、稲作に野菜や花卉[かき]などを組み合わせた複合経営の普及に力を入れている。県相双農林事務所は飼料向けトウモロコシに着目し、南相馬市や新地町で試験栽培を繰り広げている。国内で流通する飼料の大半は輸入に頼り、現在は価格の高騰が農家を苦しめている。今後、地元産への需要は高まると言える。

 ただ、新しい作物の生産に躊躇[ちゅうちょ]する農家は少なくない。設備投資に見合った収益が得られるかどうか不安視する声も聞く。相双地方の新たな作物として拡大、定着させるため、県は販路の確保や安定的な栽培技術の確立など、安心して取り組める環境づくりに努めてもらいたい。

 大区画の農業では、担い手による作業の集約が欠かせない。大型農機や自動操縦、ドローンなどの先端技術を活用したスマート農業の普及も必要だ。福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想の重点分野でもある。福島ロボットテストフィールドなどでの研究開発の進展や、進出企業との連携強化も重要になる。

 南相馬市は農業研修機関の開設に乗り出した。県外からの移住者にスマート農業向けのデータ活用、経営管理を指導し、農業法人での職業体験なども想定している。こうした人材育成も不可欠だろう。

 震災から12年が経過する中、営農再開の鈍化が懸念されている。農家の高齢化や担い手不足は全国的な課題だが、被災地は特に深刻だ。農地の整備と最先端分野の人材育成が帰還や移住の促進、後継者の確保につながるよう期待したい。(平田団)