【震災・原発事故12年 復興を問う】<岸田文雄首相> 処理水放出開始、自ら決断 判断基準「数値目標はない」

2023/03/09 10:50

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処理水の海洋放出についての判断の考えを述べる岸田首相
処理水の海洋放出についての判断の考えを述べる岸田首相

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から12年となるのを前に福島民報社などの合同インタビューに応じた岸田文雄首相は、反対や理解醸成が不十分との声が多い東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出開始について、風評や理解醸成の状況などを総合的に踏まえ、国のトップとして自らが決断するとの考えを初めて示した。(聞き手・取締役編集局長 安斎康史)

 -漁業者を中心に反対の声が多い処理水の海洋放出方針について現状をどう受け止めているか。

 「福島第1原発の廃炉、福島の復興を実現するため処理水処分は決して先送りできない課題で、具体的な放出開始は今年の春から夏と示した。安全性の確保や風評対策について千回以上の説明や意見交換を実施した上、漁業者の事業継続に向けた基金などを創設した。漁業者との車座対話で寄せられた意見や要望にも真摯(しんし)に対応する。地元に足しげく通い、丁寧な説明、意見交換を重ね、理解を得たい」

 -放出開始の判断基準はあるのか。

 「具体的な数値などの目標はないとの認識だ。ただ、国内外での風評被害、安全性に対する理解醸成は政府として対応すべき課題だ。さまざまな材料をしっかり確認しながら総合的に政府として、そして私も総理大臣として判断しなければいけないと考えている」

 -福島国際研究教育機構に対して新産業創出や課題解決の技術確立などを望む被災地の期待にどう応えるか。

 「4月に約60人体制で発足し、浪江町に事務所を設ける。2023(令和5)年度から7年間の事業規模を1千億円程度と見込んでおり、組織の基盤づくりに重点を置きつつ、まずは外部委託により研究開発を早期に立ち上げる。本施設が整備され、数百人程度の研究者を確保し、活動が本格化する2030年度以降を見据えて早期に成果を得られるよう最大限努める」

 -機構と地元との連携も重要だ。

 「地元市町村長が参画する新産業創出研究開発協議会や市町村別の座談会などを開催し、具体的な要望を把握し、取り組みを前進させたい」

 -被災地は解決しない課題が山積しており、財源の確保が極めて重要となっている。

 「地震、津波の被災地域では被災者の心のケアへの細かい対応、原発事故被災地では本格的な復興、再生に向け、引き続き中長期的な支援が必要だ。予算確保も含めて国が前面に立ち、責任を持って事業を行う」

 -帰還困難区域の環境整備に向け、どう取り組むのか。

 「将来的に全ての避難指示を解除するとの決意は揺らぐことはない。特定復興再生拠点区域(復興拠点)では浪江町は31日の解除を予定し、残る富岡町、飯舘村も今春を目指している。地元の声を丁寧に聞きながら医療、介護、教育、買い物環境など住民が帰還できる環境整備や産業、なりわいの再生支援に力を入れる。復興拠点外も『古里に帰りたい』との切実な思いを持つ人々が帰還できるよう、今国会における福島復興再生特別措置法の改正案の成立を目指す」