東日本大震災・原発事故

【震災・原発事故12年 復興の分岐点】除染土の再利用実証 青森・風間浦村誘致検討 村長表明、県外自治体で初

2023/03/08 18:52

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 青森県風間浦村の冨岡宏村長は7日、東京電力福島第1原発事故に伴う除染土の再利用に向けた環境省の実証事業について、村への誘致を検討していると明らかにした。村役場で記者団の取材に応じた。同省によると、本県外の自治体が事業の誘致検討を表明するのは初めて。

 冨岡氏は誘致について「前向きに検討したい。きちんと説明すれば(村民の)理解を得られると思う。国全体の問題であり、福島のためにもなる」と述べ、すでに実証事業に取り組む飯舘村を2023(令和5)年度中にも視察する考えを示した。除染土の受け入れ開始時期や規模は未定。冨岡氏は再利用目的の試験事業とは異なる除染土の最終処分についても「村でも(受け入れが)可能な場所はあるのではないかと思うが、福島からは遠く厳しいかもしれない」と話した。

 風間浦村は、事業誘致は検討段階にあるため現時点で村民への説明の場を設ける予定はないとしている。

 村や環境省によると、冨岡氏が昨年11月に同省を訪れ、除染土の再利用に向けた現状や実証の取り組みに関し情報収集した。1月には同省の担当者が村を訪れ、飯舘村長泥行政区の特定復興再生拠点区域(復興拠点)の農地での実証事業の現状などを説明し、意見交換したという。

 風間浦村に隣接するむつ市には使用済み核燃料の中間貯蔵施設、大間町には電源開発大間原発があり、両市町は国の原発関連交付金を受けている。

 冨岡氏は2021年12月の定例村議会一般質問の答弁で、財政基盤の強化に向け、村内に原子力関連施設を含む企業誘致を検討する考えを表明した。実証事業の受け入れに伴う交付金措置などはないが、村は事業誘致の検討などを通して、将来的に隣接する市町と同等の収入源確保の道筋を探っていく考えだ。

 環境省環境再生事業担当参事官室の担当者は「(村が)関心があるのであれば、引き続き情報提供や意見交換などで丁寧に対応したい」としている。これとは別に、関東地方の同省施設で計画している再利用実証事業についても地元への丁寧な説明を続けるという。

 福島県中間貯蔵・除染対策課の担当者は「県外における除染土の再生利用実証事業は国の責務であり、県外最終処分の実現に向けた具体的な取り組みだ。日本全体の問題として国民の理解が深まるよう、国がしっかりと取り組んでほしい」と話した。

 風間浦村は青森県下北半島北部で津軽海峡に面し、約70平方キロの面積の約96%が山林となっている。漁業と観光を基幹産業としており、1月末現在の人口は1678人(864世帯)。


■県外最終処分具体像、今も定まらず

 原発事故発生から間もなく12年となる中、中間貯蔵施設にある除染土の県外最終処分の具体像は今も定まっていない。

 環境省は昨年12月、除染土の再利用に向け、関東にある同省の施設で実証事業を行う計画を表明。花壇に使う除染土を別の土で覆う上、関係者以外が入れない場所を選んだ。だが、候補地となった埼玉県所沢市と東京都新宿区の住民説明会では、風評による地価下落、安全性への懸念などを理由に反対の声が相次ぎ、今も打開への糸口は見えない。

 県内の除染土は2045年3月までの県外最終処分が法律で定められている。環境省は2025(令和7)年度以降の最終処分場選定の具体化に向け、減容化や最終処分時の保管技術などの検討を進めているが、再利用が困難になることで最も重要な最終的な処分量の想定に影響が出るおそれもある。

 廃棄物の資源化に詳しい北海道大大学院の佐藤努教授(環境鉱物学)は、内容や場所を提示した上で協力を求めるやり方は「地域住民にとっては突然の話となり、疑問や疑念を持ったままで受け入れるのは難しい」と分析。「住民が『協力したい』と思えるきっかけをつくり、円滑な合意形成につなげることが重要だ」と提案する。